大阪大学と米ネバダ大学,理化学研究所,独欧州XFEL,独イエナ大学,独ヘルムホルツ研究所,米カリフォルニア大学,米ローレンスリバモア国立研究所の研究グループは,超高強度レーザーによる固体の等積加熱のメカニズムを新しいX線計測手法により明らかにするとともに,レーザー照射された金属チタン内部が数百万度の高エネルギー密度状態になった兆候を,世界で初めて捉えることに成功した(ニュースリリース)。
極短パルスレーザーは物質をサブピコ秒という短い時間で,数百万度から一千万度まで一気に加熱できる能力を持つ。加熱時間が短いため,物質は固体密度を維持したままプラズマへ変異し,太陽内部と同等な高エネルギー密度状態になる。このような超高速加熱を等積加熱と呼び,密度の値が既知の非平衡輻射プラズマを作ることができる。
しかし,高強度赤外レーザーによる加熱現象は,現象の時定数の短さと,加熱領域がミリメーター以下と小さいため,現象の詳細を捉えることが難しく,加熱過程の詳細は実験では明らかになっていなかった。特にターゲット前面にレーザー相互作用で生じる低密度の超高温プラズマが形成されるため,従来のX線計測ではX線が固体内部からのものなのか,固体前面にある超高温の低密度プラズマからのものなのか区別がつかない状態だった。
今回,研究グループが加熱された固体内部で発生する特性X線(Kα線)のターゲット裏面からの発光を,狭バンド幅2次元イメージング(バンド幅5eV,空間解像度10μm)して計測したところ,レーザー照射中心部でKα線の欠損が確認された。
これはターゲットを構成するチタン原子がイオン化し,16価以上に電離した結果,Kα線がシフトし2次元イメージングの計測幅からずれたことを示す。すなわち,固体内部でチタンが16価以上に電離するほど加熱されたことが明らかになった。
一方で,高強度レーザーと物質の相互作用を,衝突過程・イオン化過程を組み入れたプラズマ粒子シミュレーションコードによりシミュレーションを行なった。その結果,実験データを説明するとともに,高価数への電離が起こる高温状態は,レーザー照射後,ピコ秒以上の時間遅れで達成されることがわかった。
この結果は,レーザー等積加熱が高速電子の作る電流による加熱という従来の考え方と異なり,レーザー照射中にターゲット前面に形成された超高温低密度プラズマからの熱拡散過程によることを明らかにした。
研究グループは,今回の研究成果はレーザーにより金属内部のエネルギー状態を制御する指針を与え,高輝度X線源など将来応用が期待される新量子線源の開発につながるものとしている。