東大,超短テラヘルツパルス光で磁化変調20%を達成

東京大学は,強磁性ナノ微粒子を半導体中に埋め込んだ試料に対して,超短テラヘルツパルス光を照射し,飽和磁化の約20%の磁化変調を得ることに成功した(ニュースリリース)。これは強磁性薄膜を用いた従来の研究で得られていた大きさの約20倍以上に相当する。

ピコ秒程度の非常に短いテラヘルツパルス光を強磁性体に照射すると,そのパルス波形に応答する形で磁化が高速に変調されることが知られている。ピコ秒の時間スケールでは,通常,磁化が動くときに感じる摩擦の影響に比べて,光パルスの影響の方がはるかに大きくなり,磁化を効率的にかつ高速に変調することができる。

従来の技術では,磁化はナノ秒程度で反転するが,この新しい技術を応用することにより,それよりも1000分の1程度短いピコ秒の時間スケールで,磁化を高速に反転できるようになることが期待されている。しかし,従来の強磁性金属薄膜を用いた研究では,磁化変調の大きさは飽和磁化の1%程度以下であり,変調が小さいことが大きな問題だった。

光は電界成分と磁界成分をもっているが,従来の強磁性金属薄膜を用いた磁化のテラヘルツ変調の研究では,光パルスの「磁界成分」が磁化変調に直接寄与していると考えられてきた。しかし,研究グループは,以前の研究で,半導体をベースとした特殊な強磁性材料を用いると,光の磁界成分だけでなく「電界成分」を磁化変調に大きく寄与させることができることを明らかにした。

静電界により磁化が制御できることは近年さまざまな研究で明らかになってきており,電子の軌道と電子のスピンを結び付けているスピン軌道相互作用という相対論的効果などにより,これらの現象は説明されている。研究グループが用いた半導体をベースとした強磁性材料では,テラヘルツパルスの照射により,スピン軌道相互作用等に起因したテラヘルツ波の電界成分による高速な磁化の変化が起こっているものと考えられる。

今回の研究では,半導体ガリウム砒素(GaAs)中に強磁性マンガン砒素(MnAs)のナノ微粒子が埋め込まれた膜厚100nmの薄い試料を用いた。テラヘルツ光は,半導体GaAs中をほとんど減衰することなく進むことができる。従って,光パルスにより各ナノ微粒子に大きな電界を加えることができると考えられる。

研究グループは超短テラヘルツパルス光を試料に照射すると同時に,プローブパルス光を照射して,磁化がテラヘルツパルス光に対してどのように変化するかをプローブ光の偏光面の回転を測定することにより観測した。

200kV/cmというスイスのグループ等による先行研究で用いられているよりも小さなテラヘルツパルス電界を用いたにも関わらず,磁化の変調量は飽和磁化の20%に及んでおり,従来の研究の約20倍以上の大きな磁化変調が得られたという。

研究グループは,今回の成果は,ピコ秒での磁化反転を利用した超高速不揮発性メモリーの実現などにつながるものと期待できるとしている。

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