理化学研究所(理研)は,強い「量子揺らぎ」のために,固体中で電子スピンが動かないにもかかわらず波のような振る舞いを示す「量子スピン液体」相に隣接するスピン秩序相において,電子スピンが分子内で分割された新しいスピン秩序状態を発見した(ニュースリリース)。
今回,研究グループは量子スピン液体となる分子性導体EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の陽イオンに分子修飾を行なったMe4P[Pd(dmit)2]2の基底状態を,核磁気共鳴法を用いて調べた。
Me4P[Pd(dmit)2]2は,化学式あたりスピン量子数1/2のスピンが1つずつあり,それらは極低温では単純に上向き・下向きと反平行に整列すると考えられていた。しかし,観測された核磁気共鳴スペクトルから,この物質のスピン秩序は2種類の大きさと向きが異なる複雑な構造を持つことがわかった。
このためには,通常は一体のものとして振る舞うと考えられる量子数1/2の秩序スピンが,分子内で分裂している必要があり,Pd(dmit)2分子の対称性の異なる2つのフロンティア分子軌道が固体中で混ざり合うことに起因すると考えられるという。
この研究は,電子スピンの内部自由度というミクロの世界のできごとのように見えるが,今回見いだされたスピンの分裂は,二量体を形成する2つのPd(dmit)2分子間の距離や分子の中心にある金属元素の選択に強く依存し,さまざまに制御することができる。
研究グループは,この内部自由度は磁性研究の標準模型では考えられてこなかったものであり,未知の電磁応答を示す機能性物質の開拓につながるとしている。