矢野経済研究所は,照明用途に使用される半導体レーザーを調査し,世界市場規模,製品アプリケーション別トレンド,関連企業動向,将来展望を明らかにした(ニュースリリース)。
半導体レーザー(レーザーダイオード:LD)は直進性や単色性,高光密度,可干渉性などに優れ,これまで光ディスクやレーザープリンター,各種センサーなどさまざまな用途に使われてきた。照明用途の半導体レーザーについてもそうした特長を生かし,レーザーポインターや建築用途等に使われる墨出し器,プロジェクターなどでの普及が進んでいるものの,その他の機器(アプリケーション)では本格的な採用には至っていない。
今回の調査で,2018年のレーザー照明世界市場規模(メーカー出荷ベース)を505万1千モジュール,4469億円と推計した。現状,本格的な採用は半導体レーザーの直進性を活かした機器開発が中心となっており,出力の安定性や精度,制御しやすさ等を生かしたアプリケーションでの採用事例は未だ少ないとする。
レーザーポインターとしては,自身の存在を周囲に知らせる意味での活用事例もあり,例えば,ロンドンでは自転車に装着することで他の自動車や自転車,歩行者から認識されやすくなることに加え,道路での安全性向上にも寄与している。
また,半導体レーザー搭載モデルのプロジェクターは,会議室備え付けなどシステムユースが大半を占めており,光束5000 lm以上の高輝度モデルを中心に好評だという。これは半導体レーザーの特長である直進性やフォーカスフリー(ピント合わせ不要),小型,長寿命,即応性等がシステムユースのプロジェクターのニーズに合致していることがある。
注目トピックとして,QDレーザは,2018年に網膜走査型レーザーアイウェア「RETISSA® Display」を発表した。RGB半導体レーザーを3色搭載したヘッドマウントディスプレー(HMD)の一般発売は世界初の事例。
直近では,網膜走査技術への展開を進めている企業も新たに登場しつつあり,ピクシーダストテクノロジーズの製品は,科学技術振興機構(JST)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の国家プロジェクトを通じて,網膜走査型の技術を培い,メタマテリアルミラーを使用した網膜投影手法を用いて,広視野角かつ広いアイボックスを伴っている。
HMD光源としてLEDを採用しているとハーフミラーが使用されることが多いが,その場合視野角が狭まり,コンパクト化が難しい。一方,光源に半導体レーザーを採用した網膜走査方式はそうした視野角の狭まりはなく,今後の性能向上によって,よりコンパクト化を期待することができる方式だとしている。
用途に合わせ,部材選定を含めた製品設計をしているため,半導体レーザーとLEDの採用は,そうした要因により決定づけられる。また,半導体レーザーを採用した場合,製品は高価となるため,製品の高機能化・高級化を目的とした差別化のために選択される可能性があるという。
今後,半導体レーザーの特長を生かした開発が進み,車載用ヘッドライトやテレビ,ヘッドアップディスプレー(HUD),HMD,家庭用・業務用照明器具などの機器において,本格的な採用が進展する見込みだとし,2025年のレーザー照明世界市場規模(メーカー出荷ベース)は5871万1千モジュール,2兆1198億円の大幅な成長を遂げるとみている。
アプリケーション(機器)別に市場をみると,半導体レーザーの発光効率が改善されることで,高輝度・高出力用途が多い業務用照明器具へ採用が進むこと,省エネルギー効果も優れた半導体レーザーが,IoTやAIを組み合わせたスマートライティングなどが普及する家庭用照明器具でもLED光源を代替するなど,照明器具の構成比が高まると予測する。次いで,レーザーポインターや墨出し器などのその他機器,低輝度モデルへの普及が進むプロジェクターなどが続く見通しとしている。