大阪府立大学,新潟大学,甲子園大学,東京大学の研究グループは,1つの細胞の中の温度の分布を可視化する,細胞内温度イメージング法について,詳細なプロトコール(実験マニュアル)を確立した(ニュースリリース)。
ガン細胞などの病態細胞は,健常な細胞よりも代謝が活発であることがわかっており,温度が高いことが予想されている。このことから,細胞内温度イメージングを使うことにより,病態細胞の検出や,細胞が病態化する仕組みの解明,新規薬剤の開発,温熱療法時の患部温度のモニタリングなどへの応用が期待できる。
また,さまざまな状態における細胞内の温度を詳細に調べることにより,温度という新しい観点から細胞の仕組みも明らかにできると期待できる。
現在まで,細胞内温度イメージングは手法の開発についての研究が先行し,この手法を用いて新しい生物学的発見をしたという報告は数えるほどしかない。これは,細胞内の温度を正確にイメージングするために必要とされるさまざまな実験手順,注意事項が,通常の顕微鏡観察とは大きく異なり,スタンダードとなるプロトコール(実験マニュアル)が存在しなかったためだと考えられる。
今回,研究グループは,初めて細胞内の温度分布を可視化する手法を開発した研究グループとして,これまでにさまざまな蛍光温度プローブの開発を通して細胞内温度イメージングの普及に取り組んできた。その普及活動の一環として,今回,スタンダードとなるプロトコールの作成を行なった。
今回発表した論文は,研究グループが 2015年に「PLOS ONE」誌に発表した細胞内温度イメージング法に関する論文を下敷きとして,その実験手順や注意点をまとめたもの。研究グループが独自に開発した蛍光温度プローブは,温度感受性のポリマーユニット,イオン性ユニット,蛍光性ユニットの3つのユニットから構成されている。
この論文では,蛍光温度プローブを細胞に導入する方法について詳細に解説したほか,細胞内の温度を正確に定量するために必要な検量線の作成法,細胞内温度イメージングを行なう際の厳密な温度制御法についての実験手順,注意点をまとめた。
また,蛍光寿命を測定し可視化できる蛍光寿命イメージング顕微鏡の使用法についても詳細に解説し,この顕微鏡を使って,細胞内の温度分布を定量的にイメージングする方法手順を確立した。
検量線の作成法や蛍光寿命イメージング顕微鏡の使用法に関する詳しいマニュアルは,細胞内のさまざまな物質(イオン,活性酸素など)の濃度や状態(pHの変化など)を可視化する実験にも適用できる。研究グループは,この論文は,細胞内温度を使用する応用研究・基礎研究だけでなく,「生細胞イメージング」を用いる生命科学研究全体に貢献するものと考えている。