東工大ら,光でタンパク質を作る人工細胞を開発

東京工業大学と東京大学は,光を当てるとタンパク質を作り出すことができる人工細胞の作製に成功した(ニュースリリース)。

人工細胞は,脂質膜の中でDNAからタンパク質を合成する擬似的な細胞。これは,非生物である物質や遺伝情報から,生命現象が創発する過程を再現できるとして期待されている。しかし,これらの反応は,あらかじめ供給したエネルギー源を消費して反応を行なうだけのもので,実際の細胞のようにエネルギー源であるATP自体を生産することはできなかった。

細胞内のATPは主に細胞膜,またはミトコンドリア内膜に存在するATP合成酵素によって合成される。ATP合成酵素が働くためには,あらかじめ膜内外のプロトン濃度勾配を形成する必要があり,これが直接のエネルギーとなる。プロトン濃度勾配は通常,呼吸や光合成による電子伝達系を経て形成される。

今回,研究グループは,好塩菌から単離したバクテリオロドプシン(bR)が光エネルギーからプロトン濃度勾配を形成することに着目し,bRとATP合成酵素を組み合わせることで,光によってATPを合成する人工細胞小器官を作製した。直径数百nmほどのこの人工細胞小器官を,細胞と同じくらいのサイズの大きな膜小胞(GUV)に閉じ込めて光を当てたところ,実際の細胞内と同じレベルのATPを人工膜の中に合成することができた。

このように光で合成したATPを,転写(DNAからmRNAを合成する反応)の基質や,翻訳(mRNAからタンパク質を合成する反応)のエネルギーとして利用することで,光からタンパク質を合成する人工細胞を設計した。人工細胞はGUVの中に無細胞タンパク質合成系(無細胞系)を封入することでできる。

今回利用した無細胞系は,転写・翻訳反応に関わる36種類の酵素とリボソーム,さまざまな低分子化合物から組み立てた,再構築型の無細胞系になる。ここからATPを取り除き,代わりにその前駆体であるADPを加えることで光によりATPを作る人工細胞をデザインした。

今回の研究により,光という物理的なエネルギーを,情報伝達分子や機能性高分子に変換することが人工細胞系で可能になった。さらに反応産物として人工細胞小器官の部品となるタンパク質を合成することで,実際の生物と同じ様に自身のパーツを生み出すことに成功した。

研究グループは,タンパク質合成反応以外にも,ATPを反応エネルギーとして利用する数多くの細胞内反応を本当の細胞に近い時空間条件で再現することができ,そのほかにも,光で生化学反応を制御するバイオデバイスの開発など,将来的な産業応用も期待できるとしている。

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