理研,新しい光誘起超伝導メカニズムを発見

理化学研究所(理研)は,モット絶縁体にパルス光を照射することにより,「ηペアリング状態」と呼ばれる珍しい超伝導(ηペアリング超伝導)が生じ得ることを,スーパーコンピュータ「京」などによる計算機シミュレーションをもとにして理論的に予言した(ニュースリリース)。

近年,物質にパルス光を照射することにより,物理量が時間に依存して変化する「非平衡状態」で生じる現象の研究が盛んに行なわれている。その1つとして,電気が流れない絶縁体,特に,電子間クーロン相互作用により絶縁体化した「モット絶縁体」にパルス光を照射し,非平衡状態でモット絶縁体を金属,さらには超伝導にしようとする試みもなされている。

今回,研究グループは,ハバード模型(隣り合う原子間を電子が飛び移ることで得られる運動エネルギーと,同一格子サイト上に2つの電子が同時に来た場合に働く電子間クーロン相互作用からなる模型)で実現しているモット絶縁体に,パルス光を照射した場合に起こる非平衡ダイナミクスを,スーパーコンピュータ「京」などによる計算機シミュレーションをもとにして理論的に解析した。

その結果,光励起した状態が,同じ格子サイトで電子対を形成した超伝導相関を非常に強く示すことを発見した。さらに,超伝導相関の符号をよく調べると,正負に振動していることがわかった。これは,「ηペアリング状態」と呼ばれる超伝導(ηペアリング超伝導)に特有な振る舞いとなる。

ηペアリング状態は,スピンの向きが異なる2つの電子が同じ格子サイトで対(電子対)を形成し,その位相が隣り合うサイト同士で180度異なるという珍しい電子対(ηペア)が多数集まってできた状態。この状態は,約30年前にハバード模型の厳密な固有状態であることが示されていた。

しかし,ηペアリング状態は励起状態であり,しかも励起状態は数多く存在するため,実験的に実現することが難しく,一部の数理物理学者を除いて,現在まであまり注目を集めていなかった。

研究グループは,今回の研究結果により,この珍しい電子状態が,パルス光照射という比較的簡単な実験で実現できることを理論的に予言した。さらに,ハバード模型の隠れた対称性とそれに基づく数理構造を用いた解析から,パルス光を照射することで,ηペアを一つずつ選択的に生成できることを突き止めた。

研究グループは,今回の研究成果は,非平衡状態のダイナミクスで現れる光誘起現象の新たな側面を明らかにしたのみでなく,現在さまざまな場面で利用されている超伝導の応用の可能性をさらに広げるものとして期待できるとしている。

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