京大ら,赤外光を電気変換する無色透明材料を開発

京都大学,豊田工業大学,徳島大学,産業技術総合研究所は,赤外光を電気エネルギーや信号に変換することのできる無色透明な材料の開発に成功した(ニュースリリース)。

無色透明な材料における光誘起電子移動の実現が注目を集めている。紫外光は通信,太陽光のエネルギー変換に向いていないため,長波長で不可視の光である赤外光を電気エネルギーや信号に変換することのできる新しい材料の開発が強く求められていた。

今回,研究グループは,赤外域に局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示す無機ナノ粒子を用いて,赤外光を電気エネルギーや信号に変換することのできる無色透明な材料の開発を行なった。

スズドープ酸化インジウムナノ粒子は,ドープにより生じた自由電子の集団振動に由来するLSPRを赤外域に示す。また,ガラス基板上に製膜したスズドープ酸化インジウムナノ粒子は可視域の透過率が95%であり,赤外域に強い吸収を持つ無色透明な材料であることが分かった。

スズドープ酸化インジウムナノ粒子を電子アクセプターである酸化物担体に担持し,LSPRを励起して酸化物の導電帯の電子に由来する吸収を観察すると,酸化チタン,酸化スズにおいては特徴的な吸収スペクトルを赤外域に観測することに成功した。吸収スペクトルの強度から見積もった電荷注入効率は,酸化チタンに対して0.11%であったのに対して,酸化スズに対しては33%と大幅に増大が見られた。

さらに,スズのドープ量を変化させてスズドープ酸化インジウムナノ粒子のLSPRを4000nm近傍まで長波長側にシフトさせた場合も,LSPRの励起による電荷分離を観測することができた。

スズドープ酸化インジウムナノ粒子を担持した酸化スズをタングステン基板上に焼結担持して光電極を作成し,赤外光照射下での光電流を測定すると,スズドープ酸化インジウムナノ粒子のLSPRを再現する形で光電流のアクションスペクトルが得られた。

この光電極は2500nm付近までの赤外光の照射に応答して光電流を示し,作成した光電極が中赤外域近傍までの光に対して応答することが明らかになった。さらに,赤外域にLSPRを示すスズドープ酸化インジウムナノ粒子を光吸収材に応用することで,透明性(可視域の透過率95%以上)と高い赤外光誘起電子移動効率(電荷注入効率33%)を両立することに成功した。

この材料は,1400–4000nmという近赤外域から中赤外域の光に応答することが明らかになっている。この成果は,目に見えない太陽電池,通信機器,光学センサーなどの最先端デバイスの開発への応用が期待されるとしている。

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