韓国のキョンヒ大学と東京大学をはじめとする研究チームは,アルマ望遠鏡を使って若い星オリオン座V883星を取り巻くガスと塵の円盤(原始惑星系円盤)を観測し,多数の有機分子を発見した(ニュースリリース)。
太陽系には有機分子が豊富に存在することがわかっている。特に彗星は岩石と氷の集合体で,大量の水と有機分子を含んでいる。太陽系の長い歴史の中で地球には数多くの彗星が衝突したと考えられ,地球の成り立ちを考える上で,彗星の成分を調べることは大変重要となる。
今回,研究グループは,地球から1300光年離れたところにある「オリオン座V883星」を観測した。この星は若い星で一時的な大増光の最中。周囲を取り巻く円盤から大量の物質が星に落下することで,急激に星が明るくなったと考えられる。
星が急激に明るくなると,円盤の温度が上がる。円盤内で氷が昇華する温度になる場所は「スノーライン(雪線)」と呼ばれる。円盤の温度が上がると,より外側の氷も昇華するため,このスノーラインが外側に移動することになる。増光中はそのスノーラインが10倍ほど外側に移動し,円盤内の広い範囲にわたって氷に閉じ込められていたさまざまな分子がガスとして放出されると想定される。
今回,研究グループは,オリオン座V883星のまわりの円盤を観測し,複雑な有機分子であるメタノール(CH3OH),アセトアルデヒド(CH3CHO),ギ酸メチル(CH3OCHO),アセトニトリル(CH3CN),アセトン(CH3COCH3),エチレンオキシド(H2COCH2),ギ酸(HCOOH),メタンチオール(CH3SH)を発見した。
アセトンが原始惑星系円盤で検出されたのはこれが初めてという。一般的な原始惑星系円盤に比べて,オリオン座V883星の円盤ではこれらの分子の水素に対する存在比が約1000倍以上高くなっていることがわかった。複雑な有機分子が,中心星の急増光によって確かに氷からガスとして放出されたことを裏付ける結果といえる。
また,オリオン座V883星のまわりの氷に含まれる複雑な有機分子の成分が,探査機ロゼッタが調べたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の成分と似ていることも明らかになった。
さらに研究グループは,アルマ望遠鏡の高い解像度を活かし,原始惑星系円盤内のメタノールとアセトアルデヒドの空間分布も明らかにした。この2つの分子の分布はよく似ており,半径60天文単位(太陽系の海王星軌道の2倍の大きさ)ほどのところにリング状に分布していることがわかった。
研究グループは,今回の観測でスノーライン付近の氷の成分を明らかにすることができ,また急増光中のさまざまな年代にある星のまわりの氷の成分を調べることで,星の進化に伴う周囲の化学組成の変化も追いかけることができるとしている。