名古屋工業大学と米カリフォルニア大学サンディエゴ校らは,同一周波数でも特定の電波波形に応じて振舞い(反射,透過など)を変化させる新規電磁材料「波形選択メタサーフェス」を開発した(ニュースリリース)。
従来,自然界に存在する材料の電波に対する振舞い(電磁応答)は周波数に応じて大きく変化するものと理解されてきた。これを言い換えると,「周波数が固定された場合の各材料の振舞いは常に一定」と考えられてきた。
また,これら材料の電磁応答は各材料を構成する分子の振舞いによって決定されるものの,一般的に分子の大きさはオングストロームスケールと極めて微小である。従って,人工的に分子の振舞いを制御して所望の電磁応答を作り出すことは容易ではなかった。
一方,金属(導体)は強く電波に応答することが着目され,百年程前から金属を繰り返し配置した材料が利用されてきた。この人工周期構造と呼ばれる材料では任意に金属の形状を変えることで,容易に到来電波に対する振舞いを変えることができた。しかし,同一周波数上の異なる電波を選別することはできなかった。
これに対し,研究グループは人工周期構造の一種であるメタサーフェスにダイオードなどの回路素子を導入することで,同一周波数でも波形,すなわちパルス幅と呼ばれる新たな概念に基づいて特定の電波のみ吸収し,電磁干渉を抑制する材料を開発していた。
今回,研究グループが開発した「波形選択メタサーフェス」は電磁応答の操作を吸収だけでなく,反射や透過など一般的な散乱現象の操作まで拡張できることを世界で初めて実証した。
その結果,より汎用的な電磁問題への応用が可能となっただけでなく,電磁材料研究の観点からは周波数に応じて変化させる周波数選択性(Frequency Selectivity)と,波形に応じて変化させる波形選択性(Waveform Selectivity)の2つの自由度に基づいて,電磁応答を二次元的に展開することに成功した。加えて,今回は材料周辺の電磁界に応じて電気的に(システマティックに)振舞いを制御できることも実証した。
これによって,例えば無線通信システムなどと連動しながら電磁応答を操作できるようになった。さらに当該材料を既存の電磁問題へと応用することで新たな自由度(パルス幅)に基づき柔軟に解決できることも明らかにしたという。
研究グループは,今回の研究が,特に通信分野への応用が期待できるとし,また既存のマイクロ波通信デバイスなどに用いることで,社会的な需要の高まりにともなって枯渇状況にある周波数資源(電波利用枠)の拡張に貢献できるとしている。