新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は,東京大学とともに窒化タンタル(Ta3N5)光触媒を用いて,太陽光によって水を高効率に分解できる赤色透明な酸素生成光電極の開発に成功した(ニュースリリース)。
水の分解反応による水素/酸素製造で世界トップレベルの太陽光エネルギー変換効率5.5%を達成したという。
酸素生成用光触媒であるTa3N5光触媒は,400nmから600nmまでの可視光を吸収し,光触媒的に水を分解できる材料として知られている。これまでにTa3N5をベースとした酸素生成用光触媒の研究開発が,国内外で進められてきた。
今回,研究グループは,このTa3N5を成膜する導電性基板として,透明で低抵抗,耐熱性に優れたGaN/Al2O3を適用するとともに,スパッタリングによる成膜条件を最適化し,温和な条件での窒化により,赤色透明な酸素生成光電極を開発することで高効率に水から酸素を生成することに成功した。
この酸素生成光電極を電解液に浸して疑似太陽光を照射し,外部電源から電位を印加すると光電極上で水の酸化反応が起こり,酸素が生成される。水の酸化反応は理論的には1.23V vs.RHEよりも高い電位で起こるが,光のエネルギーを利用することで,より低い電位から水の酸化反応が起こり,酸素を生成することができる。
この酸素生成光電極は,0.6V vs.RHE近辺から水の酸化反応が起こり,1.23V vs.RHEで6.3mAcm-2の光電流を発生し,疑似太陽光の照射下における窒化タンタル光触媒の理論最大電流値の50%に迫る性能を達成した。
この酸素生成光電極は,赤色透明という大きな特長を持っており,600nmよりも長波長の光を背面に透過させることができる。透過吸収スペクトル測定の結果から,600nmよりも長波長側の光透過率は70%以上であることがわかった。これにより,600nmよりも長波長側の光を水分解に利用できる水素生成光電極と組み合わせることで,2段型の水分解用タンデムセルの1段目(前面)として利用することが可能になるという。
研究グループは,酸素生成光電極を1段目(前面)に,CuInSe2(1100nmまで光吸収可能)をベースとした水素生成光電極を2段目(背面)に,それぞれ配置した2段型のタンデムセルを作製し,疑似太陽光の照射下における水の全分解反応を検討した。
その結果,太陽光を用いた水の分解反応による水素/酸素製造において,照射開始15分後で5.5%の太陽光エネルギー変換効率を維持することができた。研究グループは,今後,光電極のさらなる高性能化,および水分解用タンデムセルの構造最適化を進め,2021年度末までに目標とする太陽光エネルギー変換効率10%の達成を目指すとしている。