名古屋大学は,インターネット総合研究所と共同で,古典物理学で標準的に使われている測定誤差の定義を「量子測定」に拡張する問題を解決した(ニュースリリース)。
測定誤差の定義を与え,実際の実験でそれを計測することは,実験科学における最も基本的な方法であるにも関わらず,これまで,量子測定に対する満足のいく測定誤差の定義は知られていなかった。
古典物理学では,測られるべき物理量の値は測定と独立に存在しているが,量子測定では,物理量の値が測定によって現れるように見える「波束の収縮」という量子力学特有の現象があり,古典的誤差概念をそのまま当てはめることはできない。
そのため,古典物理学の定義を拡張するいくつかの方法が試みられてきたが,従来の方法では,不正確な測定の測定誤差がゼロになるという不完全性があり,量子測定の測定誤差を完全に定義することは困難な課題とされてきた。
今回の研究では,量子測定に対する誤差概念が満たすべき条件を,I.操作的定義可能性,II.対応原理,III.健全性,IV.完全性の4つの数学的条件に整理し,従来の定義はIからIIIを満たすが,IVを満たさないことを明らかにした。
ここで,Iは誤差の値が測定装置の操作的性質から決まること,IIは古典的定義があてはまる場合はその値と矛盾しないこと,IIIは正確な測定の誤差の値はゼロであること,IVは不正確な測定にはゼロでない誤差の値が与えられることを意味する。
そこで,従来の定義をIからIIIを満たしたまま,更にIVを満たすように改良する「局所一様化」という方法を導入して,IからIVの全ての条件を満たす量子測定の新しい誤差概念「局所一様誤差」を導いた。
ハイゼンベルクの不確定性原理を書き換える「小澤の不等式」や,それを改良した「ブランシアードの不等式」は,従来の誤差概念に基づいて導かれていたが,そのままの形で「局所一様誤差」に対しても成立することが示された。
「小澤の不等式」や「ブランシアードの不等式」の検証実験が光の偏光測定やスピン測定などに対して行なったが,これまでの検証実験を行なったケースでは,従来の定義による誤差と「局所一様誤差」の値は一致することが示され,新たな検証実験を行なう必要がないことが示された。
研究グループは,今回の研究により,あらゆる量子測定にあてはまる誤差の標準的定義を確立し,とりわけ,近年著しく研究が進展しているハイゼンベルクの不確定性原理の精密な定量化に確実な基礎を与え,量子暗号や量子コンピュータなどの量子情報技術の精度評価に広く応用されることが期待できるとしている。