NSCは山形大学と共同で,高度化したケミカル研磨技術を用いたガラス基板ベースの曲率半径R100mmで大きく曲がる有機ELパネルを開発した(ニュースリリース)。
このパネルは,高信頼性が求められる車載向け等で,曲げた状態で固定する用途における有機ELパネルを安価に提供することが可能という。
車載用ディスプレーは,映像の黒の締まりや,色鮮やかさから有機ELが望まれている。スマホ等ではすでにフレキシブルな有機ELが使われており,車載においてもインテリアに合わせ湾曲する要望がある一方,車載用途には厳しい環境でも耐える必要がある。
しかしながら有機ELは水蒸気や酸素に対して敏感に劣化するため,水・酸素のパネル内部への侵入を厳重に抑制する必要がある。フレキシブル有機ELを達成するには,これまでに2つの方法があった。
一つ目は,基板として樹脂を用い樹脂上に無機薄膜からなる水分バリア層を多層積層する方法。水分バリア性能をガラス並にするために無機薄膜を多層積層するため,非常に高価になる問題が発生する。二つ目は,薄膜ガラス(厚さ<0.1mm)を用いる方法。これはガラスであるため水分バリア性能は非常に高いものの,その薄さから製造プロセス中に破損しやすいなどの問題が発生する。
今回,両者はガラス基板をベースとした有機ELパネルのケミカル研磨技術の高度化により,安価で大きく曲がる有機ELパネルの開発に世界で初めて成功した。NSCがケミカル研磨の高度化を,山形大学が湾曲に対応する新たな封止構造を担当し,小判サイズ200×100mmの有機ELパネルを試作した。湾曲に対応し得る封止構造を完成(板厚1.0mm)した後に,ケミカル研磨法を用い,パネル総厚を0.15mmまで薄くし,曲率半径R100mmの湾曲を可能とした。
この手法の利点は,有機ELデバイス部を作製する際,通常の厚板ガラスのハンドリングでよいため,薄板ガラスのように破損する恐れがなく,またケミカル研磨工程を導入するだけであるため,設備投資が少なく曲がる有機ELパネルが量産できる。加えて,ケミカル研磨は物理研磨と比較して微細な傷が入りにくく,本来のガラスの強度を保つことが可能であるという。
同社は今後,大判高度化ケミカル研磨技術の完成および車載環境への適合性の確保を目標とし,このパネルの量産時期を2021年度としている。