自然科学研究機構国立天文台と名古屋大学は,東京大学,宇宙航空研究開発機構 (JAXA)宇宙科学研究所らと共同で,軟X線用の高速度カメラを開発,日米共同・太陽観測ロケット実験「FOXSI-3」に搭載し,太陽からの軟X線を新たな手法で観測した(ニュースリリース)。
太陽コロナは,100万度以上の高温プラズマで満たされ,様々なエネルギー解放現象が起こる非常にダイナミックな世界。その最たるものが太陽フレア(太陽系最大の爆発現象)で,フレアによって放出されたプラズマは,時に地球環境に影響を与える。太陽コロナの研究は,太陽物理やプラズマ物理という基礎学問としてだけでなく,地球環境への影響を調査するという点でも極めて重要とある。
このような太陽コロナの物理を理解するために,1980年代から気球や観測ロケット,人工衛星を用い,太陽から放たれるX線の観測が行なわれてきた。しかし,まだ理想の観測には程遠い状況という。理想の観測とは,「明るい場所も暗い場所もくっきりと見えること(高いコントラストの達成)」と「空間分解能」,「時間分解能」,「エネルギー分解能」の4つの要件を同時に満たす観測をいう。
今回,研究グループは,FOXSI-3で取得した世界初のデータを公開した。このデータは,新たに開発した「裏面照射型CMOS検出器を用いた高速度カメラ」によって,太陽からのX線光子1個1個を高速に検出・測定したもの。この高速度カメラの撮影枚数は1秒間に250枚(1枚あたりの露光時間は4ミリ秒)で,1枚あたり50個程度のX線光子を検出する。
カメラで取得した画像には,X線光子1個1個が作った信号が白い点として写る。この信号の強度は,X線光子が持つエネルギーに比例するため,個々のX線が持つ「エネルギー情報」が得られる。
また,信号が検出器上のどの位置にできたかを調べることで,個々のX線が太陽のどの場所から放たれたかを知ることができる(「空間情報」の取得)。さらに,何枚目の画像に写っているかによって,いつ太陽から放たれたX線光子であるかを知ることもできる(「時間情報」の取得)。
今回,太陽全面にわたってコントラストの高い画像(「明るい場所も暗い場所もくっきり見える」画像)が撮れたが,これは特殊なX線用の鏡(NASAが開発した斜入射ミラー)を使って光を集め,それを検出器で撮影したため。
また,観測手法は,「集光撮像分光観測」と呼ぶ。これは鏡を使って光を集め(集光),太陽の画像を撮る(撮像)と同時に,光をエネルギー毎に分けて(分光)観測するため。研究グループは,太陽軟X線の集光撮像分光観測は今回のFOXSI-3が世界初であるとし,4つの要件を同時に満たす理想の観測を世界で初めて実現したとしている。