産業技術総合研究所(産総研)は森林総合研究所(森林総研)と共同で,リグニンと粘土だけからなる透明で透湿性に優れた紫外線カットフィルムを開発した(ニュースリリース)。
リグニンは,植物の25~35%を占める構成成分として重要な高分子化合物。ベンゼン環に水酸基,メトキシル基などが結合した基本要素を持つポリフェノール類で,植物の細胞や細胞壁を結合させ強化する成分。
近年,農業分野では温暖化による病害虫被害拡大が懸念されている。病害虫の侵入を防ぐ紫外線カットフィルムを使った農業用被覆資材(ビニールハウスやマルチフィルムなど)が有効で,その需要が増加している。しかし石油由来成分を用いない紫外線カットフィルムはこれまでにほとんど例がなく,開発が望まれていた。
産総研は,粘土を主成分とする膜材料「クレースト®」を開発し,その実用化に取り組んでいる。クレースト®は本来,紫外線吸収性を持たないため,紫外線カットフィルムとして用いるには紫外線吸収剤を別途添加する必要がある。加えてクレースト®は水蒸気バリア性が高いため,農業用フィルムに求められる水蒸気透過性の付与も課題であった。
今回研究グループは,水分散性リグニンナノ粒子が紫外線吸収性を持つことに着目し,クレースト作製技術を用いてリグニンナノ粒子を含む自立膜を開発した。水分散性リグニンナノ粒子は水中でクレースト®の主成分である粘土と簡単に混合でき,その混合液を用いて製膜すると,リグニンナノ粒子を含むクレースト®(リグノクレースト)が得られた。リグノクレーストは,農作物生育に必要な透湿性と従来よりも高い紫外線吸収性を持つため,病害虫を寄せ付けない紫外線カットフィルムとして優位性を持つとする。
また,従来の農業用紫外線カットフィルムは,石油由来成分を用いた塩化ビニル系樹脂やポリオレフィン系樹脂などが主で,使用後は回収・焼却処分が必要。しかしリグノクレーストは植物・鉱物由来成分からなり,リグニンには生分解性が期待され,粘土成分はそのまま土に戻るため,すき込み処分できると見込まれ,農業用被覆材として用いると作業のコスト低減や効率化が期待されるという。
研究グループは,今回開発したリグノクレーストについて,さらに広範な性能評価試験を行なうと同時に,農業用被覆材などの用途を産業界と検討し,早期の製品化を目指した研究開発を行なうとしている。