産業技術総合研究所(産総研),理化学研究所,筑波大学,片岡製作所,名城大学,iPSポータルらは,光応答性ポリマーとレーザーを用いて,機械学習の一手法であるディープラーニング(深層学習)に基づき,培養細胞を高速に自動処理する技術を開発した(ニュースリリース)。
レーザーを用いて基材上の培養細胞から不要な細胞を分別除去する技術は,処理速度の遅さや培養系全体の温度上昇が問題となっていた。そこで今回,光応答性ポリマーの薄層を培養基材表面に導入し,培養液や細胞を直接加熱しない可視光レーザーを高速で精密に走査させ,さらに,培養ディッシュ全域の顕微鏡観察像を高速に取得する機能を備えた装置を開発した。
この技術は,レーザーの照射エネルギーを光応答性ポリマー層だけで効率よく熱に変換でき,直上にある標的とする細胞への作用を最大化するとともに周辺の細胞を含む培養系全体への影響を最小限に抑えることができるため,処理速度と精度が飛躍的に向上するという。
ヒトiPS細胞の継代培養では,突発的に生じた分化細胞の除去が,現在は手作業で行なわれている。そこで顕微鏡観察像から未分化iPS細胞と分化細胞を判別するプログラムを,ディープラーニングに基づいて開発した。このプログラムは,染色した培養ディッシュの蛍光顕微鏡画像を「教師」画像として学習し,位相差顕微鏡画像だけから不要な分化細胞を判別できる。
これを用いて,光応答性ポリマー層上で培養されたヒトiPS細胞から,突発的に生じた分化細胞をレーザー照射によって自動的に除去させたところ,未分化細胞の割合を97 %以上にまで純化できた。
さらに,ヒトiPS細胞の培養細胞の継代操作では多くの場合,増殖によって互いにつながった細胞からなる層を適切な大きさになるよう細分化する操作が通常手作業で行なわれている。そのため大きさのバラツキが生じて継代後の培養系が不均質になり,未分化状態が不安定になりやすくなる。
そこで、ヒトiPS細胞単層をレーザーで切断して、均一なサイズの細胞集塊を効率的に作製する技術を確立した。これを用いてヒトiPS細胞の継代培養を行なったところ,大きさのバラツキを大幅に低減でき,10継代にわたって未分化状態を安定に維持できることを確認した。
今回開発した技術により,品質管理下でヒトiPS細胞からの特定細胞の大量生産が可能になり,ヒト由来細胞の本格的な活用を力強く推進することが見込まれるという。今回開発した技術は,自動細胞プロセシング装置として片岡製作所から2018年度内に製品化される予定。また,今後もさらなる細胞プロセシングのニーズに対応すべく,技術を確立していくとしている。