広島大学と山口大学は,自然界の魚が,太陽光のもとで隠れる際に利用している「グアニン結晶板」を水中に浮遊させたまま,光に対し角度を制御する方法を開発した(ニュースリリース)。
生き物たちが,生体内で光の屈折率を制御して光反射をうまくコントロールし,生存淘汰などに最適の「見え方」ができるよう工夫していることはこれまで多く報告されてきた。この光利用を可能にしている物質の第一の候補が,生物のDNAの成分でもある核酸塩基の1つグアニン。
グアニン結晶板とは,地球上全ての生物のDNAの成分でもある核酸塩基の1つでグアニン分子が平行に並んだ状態で結晶化したもの。しかし,生物の体内で形成するその特異な結晶構造などの物理化学的特性はよく理解されていなかった。
今回研究グループは,天然のバイオクリスタライゼーション(生物を構成する細胞の中で,生物学的な目的に沿って固体成分・結晶が作られるプロセス)でできたグアニン結晶(魚類由来)の光反射特性について,硫酸バリウムおよび合成グアニン粉末の光反射と比較し,50%程度の光反射率を持ち,この魚由来グアニン結晶板近傍では強い光強度のコントラストを示すことを明らかにした。
次に,30µmの厚みの水槽内部にあるグアニン結晶板集団の配列を磁場で変化させ,反射光の強度が結晶板同士の向き合い方の変化に依存することを示した。その原理としてグアニン分子の反磁性の磁化率異方性を用いた。
水の中に多くのグアニン結晶板を浮遊させ対流させた状態でも,磁場の方向を水平方向から鉛直方向へと切り替えながら,水中で浮遊状態の結晶板の向きを90°刻みで変化させることが可能になった。この技術を用いてグアニン結晶集団でのレーザー光の射強度を2倍程度変化させることができたという。
水中のグアニン結晶板の濃度を制御し結晶板間の平均的な距離が光反射強度に与える影響について調べたところ,水中に浮遊した状態のグアニン結晶板が,1枚での光反射だけでなく,結晶板同士が向き合った際に生じる光干渉効果で反射する光の強度を増強させていることが明らかになった。
この増幅した干渉光は,がんなどの疾病予防のため細胞を調べる際の「マイクロ・サーチライト」として利用できる。この研究で,マイクロメートルのサイズの小さくて非常に薄いグアニン結晶板を水中に浮遊させ磁場で向きを揃えると,疑似的な多層膜あるいはフォトニック結晶として光干渉を制御できることが初めて実証された。
研究グループは今回の研究が,限外顕微鏡などによる細胞内外の成分の高感度・高機能計測手法や,がんなどの病気の進行を迅速に調べる新しい方法に結びつくと期待している。