東京大学と米カリフォルニア大学アーバイン校らの研究グループは,2次元炭素結晶であるグラフェンを,トポロジカル絶縁体と呼ばれる特異な状態に変化させることに成功した(ニュースリリース)。
グラフェンは炭素のみで構成される原子一個の薄さしかないシート状の2次元物質で,熱伝導,電気伝導の高さから次世代電子デバイス材料として注目されている。一方,トポロジカル絶縁体状態はスピントロニクスへの応用が期待されている。
トポロジカル絶縁体状態が生じるためには,強いスピン軌道相互作用が必要だが,グラフェンは構成原子が軽いため,スピン軌道相互作用が小さくなっている。そこでグラフェンにスピン軌道相互作用を導入する試みが数多く行なわれてきたが,一定強度のスピン軌道相互作用導入には成功しても,トポロジカル絶縁体の実現には至っていなかった。
研究グループは,ビスマスとテルルという重い原子で構成された超微粒子をグラフェンの上に微量に分散させ,量子トンネル効果を介してスピン軌道相互作用を導入することに成功した。
外部から加える電圧を制御することで,トポロジカル絶縁体状態が発現し,これを電気伝導,状態密度測定によって確認した。また第一原理計算による検証も行ない,グラフェンがトポロジカル絶縁体になったことが初めて確認された。
研究グループは,理論的予言から13年を経てようやくグラフェンをトポロジカル絶縁体に変化できたことは,基礎物理学的に大変大きな成果だとするとともに,そのトポロジカル絶縁状態を外部から加えた電圧で制御できるのも重要な進歩だとしている。
今後は,更に強いスピン軌道相互作用を導入して高い温度でもトポロジカルな性質を確認したり,電気伝導の制御ができるようにしたりすること,また,超伝導との組み合わせでトポロジカル量子計算を行なえるようにするなど,さまざまな方向での研究の発展を図っていくという。