国立情報学研究所(NII)は,生体情報である指静脈パターンが写真から復元されるのを防止する手法を開発した(ニュースリリース)。
生体認証の手法のひとつである指静脈認証は,銀行ATMなどの個人認証で広く活用されている。指静脈は皮膚の下にあるために可視光での判読は難しいとされ,指静脈認証装置では近赤外線が使われてきた。ところが,2016年には可視領域で撮影した複数の指の画像を使った指静脈認証の手法が提案されており,可視画像から指静脈パターンを復元できることも知られていた。
近年の市販デジタルカメラは高画素化しているため,写真をもとに復元した指静脈パターンにより,指静脈認証システムが破られる可能性がでてきていた。そのため,写真からの指静脈パターンの復元防止が求められていた。
今回研究グループは,市販デジタルカメラの画像からの静脈の検出を妨害する人工的な偽の指静脈パターンである「ジャミングパターン」を印刷した透明シールを開発した。このシール上のジャミングパターン部分では,可視光を反射する一方,近赤外線を透過する。
このシールを指に装着して可視領域で撮影すると,ジャミングパターンによりユーザー本人の指静脈の一部が見えなくなりジャミングパターンが重なって撮影される。そのため,市販デジタルカメラで撮影した写真からは装着者の指静脈パターンを復元できない。逆に近赤外領域を利用する読み取り装置ではジャミングパターンが見えないことから,装着者の指静脈パターンそのものが復元できる。
このシールは装着した状態で,ATMなどの認証装置では引き続き指静脈認証が可能。ユーザーの意思により簡単に着脱可能で,認証システム等の改修の必要がないという。
指静脈パターンなどの生体情報は「忘れることがない,紛失することがない」という個人認証での利便性がある反面,盗まれた場合でも認証情報を変更できないという問題を抱えていた。その問題に対して,この透明シールは装着していると気づかれにくいため,日常生活を阻害することなく「盗まれることがない」利便性を向上させることができるという。
研究グループは今後,この研究の有効性をさらに検証するとともに,様々な生体情報を対象にした研究の検討を進めることにより,社会における生体認証技術の安全性・信頼性確保に寄与するとしている。