名古屋大学,仏エクス-マルセイユ大学の研究グループは,ゲルマニウム結晶上の銀薄膜試料を真空加熱するだけで,表面偏析効果によりゲルマニウムからなる蜂の巣構造単原子層シート(ゲルマネン)を分離創製することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
炭素の2次元結晶であるグラフェンは,電気的,熱的,機械的強度の観点から極めて魅力的な材料であるが,バンドギャップを持たない物質だった。
最近,注目を浴びているポストグラフェン材料には,グラフェンの結晶構造である蜂の巣構造は維持したままで構成元素を炭素からシリコン,ゲルマニウム,スズに置き換えたシリセン,ゲルマネン,スタネンなどがある。これらの物質は,グラフェンよりもバンドギャップが制御しやすく,次世代のエレクトロニクスの新素材として期待されている。
グラフェンやシリセンは,すでに表面偏析効果を利用した簡易な作製技術が開発されているが,ゲルマネンやスタネンは実験条件が複雑な物理蒸着法が主流であり,ナノスケールのゲルマネンを職人技で作製していた。
研究では,ゲルマニウム結晶上の銀薄膜試料を真空加熱し,表面偏析効果を利用して,ゲルマニウムからなる蜂の巣構造単原子層シート(ゲルマネン)の分離創製実験を行なった。
その結果,走査型トンネル顕微鏡(STM)観察により,原子レベルで平坦なテラスが広域で形成されており,その表面に単原子層シートが形成されていることがわかった。高分解能STM像により蜂の巣構造を形成していることがわかり,また,周期的に0.5Åほど突出した規則構造を形成していることもわかった。
放射光を用いた光電子分光測定からも,3次元のゲルマニウム結晶ではなく,2次元の蜂の巣構造単原子層シート(ゲルマネン)を形成している可能性が高いことも示され,低速電子回折の実験データもゲルマネンの形成に矛盾のない結果を得た。
理論的にはゲルマニウム結晶基板の全表面に作製可能な分離創製技術であり,また,他のポストグラフェン材料も同様の手法で作製できる可能性を示すことができた。ゲルマネンは,グラフェンやシリセンよりも質量数が大きいため,スピン軌道相互作用が大きく,スピントロニクスやトポロジカル絶縁体注などの次世代のエレクトロニクス新素材の大量生産法として期待されるとしている。