京大ら,絶縁体の量子振動の観測に成功

京都大学,茨城大学理,高輝度光科学研究センター,米ミシガン大学,英オックスフォード大学,米ロスアラモス国立研究所は共同で,本来電子を流さない絶縁体であるイッテルビウム12ホウ化物(YbB12)において,強磁場中で量子力学的効果により電気抵抗と磁化率が磁場とともに振動する現象(量子振動)を初めて観測した(ニュースリリース)。

物質には,電気を流す金属と流さない絶縁体の2種類が存在する。温度の低下とともに,金属では電気抵抗が減少し,絶対零度でも有限(超伝導体ではゼロ)の値を取る一方で,絶縁体では電気抵抗が増大し,絶対零度においては無限大となってしまい電気は全く伝えない。

金属はフェルミ面を持つ。フェルミ面とは電子の示すフェルミ統計に従って,運動量ベクトル空間のエネルギーの低い状態から全部の電子を詰めたとき,電子で占められた状態と占められない状態の境をなす曲面のこと。フェルミ面は,いわば金属の「顔」であり,金属の示す様々な性質のほとんどはフェルミ面によって決定される。

フェルミ面の存在を示す最も直接的なものは,強磁場中で電気抵抗や磁化が示す量子振動。量子振動が観測されることは,フェルミ面の存在を示しており,金属状態が実現していることを意味する。

今回研究グループは,近藤絶縁体と呼ばれる希土類を含む化合物であり,絶縁体になる起源が電子同士の相互作用に由来する物質に注目。近藤絶縁体では,希土類原子のもつf電子の局在した磁気モーメントを伝導電子が遮蔽する近藤効果により,低温でフェルミ面が消失し絶縁体となる。

最近,近藤絶縁体のひとつであるサマリウム6ホウ化物(SmB6)で絶縁体であるにも関わらず磁化の量子振動が観測された。しかしながら,量子振動が磁化で観測される一方,電気抵抗では観測されないなど,量子振動の起源や解釈を巡って論争となっている。

共同研究グループは,近藤絶縁体のひとつであるYbB12において,SPring-8にて結晶構造とその純度(単相性)を確認後,磁気トルク測定および精密電気抵抗測定を,100分の1ケルビンの極低温,45テスラまでの高磁場中で行なった。

その結果,磁化だけでなく電気抵抗における量子振動を観測した。このような「絶縁体の量子振動」の観測は前例がなかった。量子振動の詳細な解析から,量子振動をもたらす電子状態は3次元的な性質を持ち,その温度変化は通常の金属と同様のふるまいを示すことが明らかとなった。

このことは,電気的絶縁体が,フェルミ面を持つという従来の常識を覆す結果を示している。つまりYbB12は絶縁体とも金属とも区別することができない前例のない電子状態をもつことが示唆されるという。今後,新しい理論提案や実験的研究が進展することで,電子相関に起因する絶縁体における新展開が期待されるとしている。

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