KEK,レーザーと放射光で金属破壊に新知見

高エネルギー加速器研究機構(KEK)は,レーザー衝撃による金属銅の破壊に伴う原子構造の変化を,放射光を用いて調べ,破壊する瞬間に不思議な原子配列が出現することを見いだした(ニュースリリース)。

金属内をき裂が伝搬して破壊するときのメカニズムは未だに不明な点が残されている。

これは,き裂先端の局部には応力が集中した特殊な状態になり,さらにそのき裂先端が非常に早い速度(銅の中ではおよそ5×103m/s)で材料中を伝播するので,材料中のどこかで突然起こる破壊の瞬間を観察するのが難しいため。

今回研究グループは,レーザー衝撃によりき裂先端の状態を模倣・再現できると考えた。また,破壊の瞬間を捉えるには「数〜数100nsの時間領域」がポイントと考えた。KEKのPFAR(Photon Factory Advanced Ring)はこの時間領域で破壊という不可逆反応を数ナノ秒の時間分解能で観察するのに適している。

破壊の直前には,転位密度が大きくなり結晶が大きく乱れる可能性がある。そこで,X線吸収分光により銅原子に近接する原子間の構造を捉え,X線回折により銅原子の数100個オーダー全体としての原子配列の構造を捉える2つの計測手法を併用することにより,破壊される瞬間にどのような構造になっても観察できる体制を整えた。

実験ではレーザー照射後の時間(t)を変えてX線吸収分光およびX線回折を行なうことにより,レーザー照射された銅のナノ構造の変化を明らかにすることに成功した。

時間とともに,銅金属のナノ構造状態が,①弾性変形(時間t=0〜20ns),②塑性変形(t=20〜50ns)を経て,③近接する原子間の構造は大きく乱れているのに,数100個の原子列全体では結晶の特定方位での配列が揃っているという不思議な原子配列状態(“short-range-disorder-only”state)(t=50〜320ns)が出現し破壊に至ることが明らかになった。

①,②の状態が起こることは,今までの研究からも推測されており,一部直接観察もされていた。しかし,③ の状態が出現することは,初めて確認されたという。

金属は転位が移動することで変形するが,レーザー衝撃のように短時間に大きな変形が生じる場合には限られた領域で一度に多くの転位が生成すると考えられる。それにより大きな歪みが生じるが,転位の発生する方向は結晶の特定方向に限られる。

つまり特定の方位のズレを抑えながら,近接する原子間に大きな歪みが発生するというメカニズムにより,不思議な③の状態が出現したと研究グループは考えている。

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