東大ら,光で超伝導体の超高速結晶構造変化に成功

東京大学と輝度光科学研究センター(JASRI)は,鉄系超伝導体BaFe2As2における結晶構造の超高速変化をX線回折法の時間分解測定により直接観測し,ダイナミクスの追跡に成功した(ニュースリリース)。

近年,100GPa以上に及ぶ超高圧をかけることで超伝導状態が室温で実現する物質が報告されている。しかしながら,圧力をかける方法としてダイヤモンド対を用いるため,高圧がかかる面積が極めて小さく実用は難しかった。

そこで研究では,ダイヤモンド対の代わりに「光」を用いて瞬間的に結晶内に歪みを生み出す機構を利用して,鉄系超伝導体に超高速な応力を印加することを試みた。数GPaの圧力印加により転移温度が顕著に上昇する鉄系超伝導体BaFe2As2を測定試料としてX線回折法の時間分解測定を実施し,光照射後の非平衡状態における結晶構造の直接観測を行なった。

まず,パルス状の光をBaFe2As2に照射し,その後SACLAによる高輝度で短パルス化されたX線を用いてX線回折測定を行ない,光照射後の結晶構造をスナップショットとして観測した。

この測定では,結晶からのX線回折の角度変化を観測することで,光照射による結晶構造の伸縮を求めることができる。さらに,照射する光とX線の時間差を変えながら測定していくことで,時々刻々変化する結晶構造のダイナミクスを捉えることが可能になる。

その結果,光照射後約30ps後に一旦結晶構造が収縮して,その後,約60ps後に伸長する様子が見て取れた。数値シミュレーションにより,最初の収縮は,光照射直後の電子温度分布が奥行き方向に非一様であることから引き起こされ,続いて起こる伸長は,電子から結晶へ熱が受け渡されたことに起因することが分かった。

したがって,観測された結晶面間距離の時間依存性は通常の静的な環境では決して起こりえない,光照射によって駆動された非平衡状態ならではの現象であることが分かった。

ここで最初の収縮に注目し,照射する光の強度を変えて結晶面間距離が収縮する大きさを測定したところ,照射する光の強度に応じて収縮が増大していくことが分かった。その大きさは最大で約0.1GPaに相当しており,局所的で過渡的ながら結晶に巨大な応力がかかっていることが分かった。

今回,鉄系超伝導体に「光」で応力をかけることを初めて実証した。非接触かつ大面積に印加できることから,ダイヤモンド対の使用では困難であった測定が可能になる。さらに,この方法は超高速で行なえるため,量子情報処理における制御・操作方法の指針を与えることが期待されるとしている。

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