熊本大ら,有機強相関電子材料を絶縁体-金属転移

熊本大学,東北大学,大阪大学は,電気を流しにくい絶縁体状態にある有機結晶を,ヨウ素の蒸気に曝すことによって電気をよく流す金属状態に変換し,それをまた絶縁体状態へ戻すことに成功した(ニュースリリース)。

単純な理論では電気をよく流す金属状態になることが予測されるにも関わらず,実際には電気を流し難い絶縁体状態となる物質は「強相関電子材料」と呼ばれ,通常の絶縁体とは異なる性質を有している。

特に,材料中の電気伝導を担う電子の数を変える「キャリアドープ」によって,遷移金属化合物などの無機化合物で形成される強相関電子材料からは高温超伝導体をはじめとする多くの電子材料が開発されている。

一方で,有機化合物で形成される強相関電子材料も多くあるが,有機材料では同様の原子置換・分子置換を行なうことは非常に難しいため,化学的なキャリアドープによる絶縁体状態からの変化を達成できた報告はない。

研究では,リチウムフタロシアニン(LiPc)という有機分子が,柱を形成するように積み重なって結晶化している有機強相関電子材料に注目した。この結晶中には,LiPcが作る柱に囲まれた孔が存在し,他の分子を取り込むことができる性質を有している。

LiPcを酸化することができる分子を孔の中に取り込ませられれば化学的にキャリアドープを行なえると予測した。そこで,LiPcを酸化する能力をもつヨウ素分子(I2)の蒸気にLiPc結晶を曝し,得られた試料の評価を行なった。

その結果,結晶中の孔にはヨウ素原子がLiPc一分子に対して一つの割合で取り込まれた。さらにLiPc五分子につき一分子が酸化されていることがわかり,化学的キャリアドープがなされていることが示された。

化学的キャリアドープによって電気抵抗率は25℃での値が3桁も小さくなり,電気の流しやすさが1000倍も上昇した。また,キャリアドープ前の試料は温度の低下とともに抵抗率が大きくなる絶縁体の振る舞いを見せるのに対し,キャリアドープ後の試料は温度の低下とともに抵抗率が小さくなる金属の振る舞いを−240℃付近まで示した。

有機強相関電子材料への化学的キャリアドープによる金属状態への変換は初めて達成された現象。さらに,金属化した試料を加熱すると,孔に取り込まれたヨウ素が脱離して元の絶縁体状態の試料に戻り,再度I2に曝露すると金属状態に変換されること,すなわち,有機強相関電子材料の可逆的な絶縁体状態と金属状態の制御にも成功した。

研究グループはこの成果が,新しい有機電子材料の設計指針の確立やその実用化を目指す研究の契機となることを期待するとしている。

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