広島大学の研究グループは,室温で強誘電性(メモリー効果)を示す分子の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
これは,これまでの強誘電体の理論を覆す新しい機構によって,本来強誘電性が出現しないとされていた単一分子で,強誘電体特有の自発分極と分極ヒステリシス(メモリ効果)を発現させることに成功したもの。
この現象は,30個のタングステン,110個の酸素,5個のリン原子からなるかご状の無機分子「Pleyssler 型ポリオキソメタレート」で観測された。この材料は強誘電転移を示さないにも関わらず,室温以上で強誘電体の性質である分極ヒステリシスや自発分極を示すことが明らかになった。
さらに,この分子を高分子内に分散させ,分子間相互作用を断ち切った状態であっても自発分極と分極ヒステリシスを確認したことから,単分子として強誘電的な性質を発現させることに成功した。この結果,Tb3+イオンを内包したPleyssler型ポリオキソメタレートが単一分子で強誘電体に特徴的な自発分極と分極ヒステリシスを示すことを明らかにした。
これは,従来の強誘電理論に則った一般的な強誘電体とは発現機構が異なり,単一分子で強誘電体の特徴である分極ヒステリシス(メモリ効果)を示す材料となる。言いかえると,従来の理論に基づいて算出された記録密度の物理限界に縛られない,新しい物質群であると定義することができるという。
この研究成果はこれまで課題とされていた記録密度限界を突破することのできる重要な発見であり,今後,情報社会を大きく変えるポテンシャルを有しているとする。具体的にはHDDやフラッシュメモリーなどの記録装置の超小型化が可能になるとしている。