理化学研究所(理研)の研究グループは,電流によって引き起こされる「スキルミオン弦」と呼ばれるひも状のトポロジカルスピン構造の,新しい振る舞いを明らかにした(ニュースリリース)。
スキルミオンは,電子のスピンが渦巻き状に整列したスピン構造をとっている。また,三次元系では渦巻き状に整列したスピン構造を一方向に積み重ねた弦のような構造をしており,この構造を「スキルミオン弦」と呼ぶ。
スキルミオンおよびスキルミオン弦は,トポロジカルスピン構造をとっており,連続的なスピンの向きを変形しても壊れず,外的な温度や磁場の乱れによって壊れにくいという性質を持っている。また,直径はわずか数十nmから数百nm程度。これらの低電力で駆動可能,壊れにくい,ナノスケールという特長から,スキルミオンを用いた低消費電力,高信頼性,高密度の不揮発性メモリ素子実現への期待が高まっている。
スキルミオンをメモリ素子に応用するには,電流駆動した際のスキルミオンの振る舞いを理解することが重要となる。しかし,これまで電流駆動特性の研究は主に二次元系のスキルミオンを対象に行なわれており,三次元系のスキルミオン弦についてはあまり研究が行なわれていなかった。
今回,研究グループは,スキルミオン弦が形成されるマンガンシリコン(MnSi)合金のマイクロスケールの試料を作製した。そして,非相反非線形ホール効果と呼ばれる特殊なホール効果が,スキルミオンが電流駆動されているときにのみ増大することを明らかにした。また,このホール効果が,電流駆動されたスキルミオン弦が不純物を避けようと非対称的に変形することにより生じていることも,理論計算で明らかにした。
この研究成果は,スキルミオンの電流駆動特性の解明につながるもの。今後,スキルミオン弦の電流駆動特性の解明をさらに進めることで,スキルミオンの電流駆動によって作動する次世代高性能メモリ素子の実現につながるとしている。