東京工業大学は,次世代スピン軌道トルク磁気抵抗メモリの実現に向けた,トポロジカル絶縁体であるBiSbの(012)面方位を用いた世界最高性能の純スピン注入源を開発した(ニュースリリース)。
スピン軌道トルク磁気抵抗メモリは,スピンホール効果による純スピン流を用いて,高速で書き込みができる次世代の不揮発メモリ技術。しかし,従来から純スピン流源として使われている白金やタングステンなどの重金属は,スピンホール角が低い(0.1~0.4程度)という問題があった。
研究グループでは,BiSb(ビスマス/アンチモン)トポロジカル絶縁体薄膜を評価したところ,電気伝導率が2.5×105Ω-1m-1と高い上に,室温でも超巨大なスピンホール角(~52)を示すBiSb(012)面を発見した。さらに今回,BiSb(012)の薄膜を用いて,従来よりも1桁~2桁少ない電流密度でMnGa(マンガン/ガリウム)垂直磁性膜の磁化反転を実証した。
このBiSbをスピン軌道トルク磁気抵抗メモリへ応用すると,データの書き込みに必要な電流を1桁,エネルギーを2桁低減でき,さらに記録速度を20倍,記録密度を1桁向上させられるという。
この成果は,トポロジカル絶縁体を用いた場合,特性が優れたSOT-MRAMを実現することで,トポロジカル絶縁体の産業応用のきっかけになる可能性があるとする。トポロジカル絶縁体を応用した高性能磁気メモリが実現できれば,組み込みメモリ(SRAMやFLASH)やワーキングメモリ(DRAM)の置き換えができることから,電子機器の省エネルギー化というインパクトがあるだけでなく,5~10兆円の新メモリ市場の展開も期待できるという。今後,産業界と連携して,SOT-MRAMの早期実用化を目指す。