東大ら,量子効果で10倍以上の磁気熱電効果を室温で実現

東京大学,理化学研究所,米メリーランド大学は協力して,室温で巨大な磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)を示す磁性金属Co2MnGaの開発に成功した(ニュースリリース)。

異常ネルンスト効果は,熱を電気に変換することができるが,取り出せる電圧が非常に小さいことから熱電応用は難しいと考えられていた。今回,研究グループが開発したCo2MnGaは,室温でこれまでの最高値の10倍以上大きな異常ネルンスト効果を示し,熱電応用への可能性を示した。

Co2MnGaは広い温度範囲をカバーするため,様々な温度の熱源で発電が可能だという。また製造コストが安く,無毒な材料でできており,耐久性,耐熱性にも優れているため様々な場所で利用可能。具体的には10ccの体積で約100W以上の発電が可能で,この値は腕時計や熱流センサーなどへ利用するのに十分な値だという。

今回発見された巨大な異常ネルンスト効果はワイル点と呼ばれる電子構造のトポロジーと密接に関係している。第一原理計算によってワイル点がフェルミ面近くにあることがわかった。実験的にも,ワイル点が存在する有力な証拠となるカイラル異常と呼ばれる現象が観測された。

このようなワイル点が存在すると一般に異常ホール効果や異常ネルンスト効果が大きくなることが知られているが,今回の結果はそれだけでは説明できないほど大きな増大だった。実験や第一原理計算で得られた異常ネルンスト効果の主成分(=異常ホール効果の寄与を差し引いたもの,熱電テンソルの横成分)の温度依存性は温度を下げると対数的に増大している。

今回,ワイル点を仮定したモデル計算を行なうことによって,この増大が電子構造のトポロジーと量子相転移という量子効果に由来していることを明らかにした。この発見はさらなる高出力材料の指針となるとともに,学術的にも大変興味深い成果だという。

この研究成果により,異常ネルンスト効果という新しい仕組みを利用した熱電変換素子の開発が飛躍的に進展することが期待されるとしている。

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