東大ら,異常ホール効果の変化を0.1ps以下で観察

東京大学と東北大学は,磁性体に光を当てたときに異常ホール効果が超高速に変化する様子を10兆分の1秒の時間スケールで観測することに初めて成功し,その変化からミクロなメカニズムを解明できることを示した(ニュースリリース)。

磁性体に電場をかけると,電場と平行方向だけでなく垂直方向にも電流が生じることが知られている。これは異常ホール効果と呼ばれ,通常の電気伝導と違ってエネルギー損失のない無散逸電流が生じるなどの興味深い特徴がある。

近年では物質が持つトポロジカルな性質とも深く関連することが明らかになり,異常ホール効果は一層大きな注目を集めている。一方で,不純物によって電子が散乱されることに起因する異常ホール効果も存在するため,異常ホール効果が観測されるたびにそのミクロなメカニズムがどちらに由来するものなのかが必ず議論の対象になっている。

研究では,トポロジカル磁性体に対して非常に短い光パルスを照射し,それによって生じる異常ホール効果の変化を0.1ピコ秒以下の時間スケールで調べる実験を初めて実現した。テラヘルツパルスを用い,試料を透過したテラヘルツパルスの偏光回転角を精密に計測することで,異常ホール効果を0.1ピコ秒以下の時間分解能で計測することが可能になり,従来と比べて3桁ほど速い計測を実現した。

物質に光を当てた直後のこの時間帯では,物質の中の電子だけが光のエネルギーを受け取って電子の温度が瞬間的に数百ケルビンまで急上昇するが,それ以外(格子やスピン)はまだほとんど変化を受けていないという特殊な状態が現れる。その一瞬の間に異常ホール効果を計測することで,未解明の性質を調べることが可能になった。

その結果,通常の電気伝導度はほぼ変化しないにもかかわらず,異常ホール効果は40%も急激に減少する様子を観測した。この実験結果は,トポロジカルな性質が起源だとするとよく説明できる一方,不純物散乱由来だとするとまったく整合しない。つまりこの研究は,光パルスを当てた直後の異常ホール効果を調べることで,ミクロなメカニズムを解明する新たな道筋を示した。

また,異常ホール効果は磁性体に埋め込まれた磁気情報を電流によって読み出す手段としても重要。10兆分の1秒程度の時間スケールで異常ホール効果の変化のメカニズムを解明したことは,高速磁気情報処理デバイスの開発においても重要な設計指針になると考えられるとしている。

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