京都大学,東北大学,オリンパスの研究グループは,細胞が外界の物質を取り込む際の直径数100nmの陥入構造を生きた細胞で可視化し,その分子機構に関して新しい知見を手に入れることに成功した(ニュースリリース)。
今回,先端径が数ナノメートルの鋭利なプローブで試料表面を「なぞる」ことでその形状を可視化する「走査型プローブ顕微鏡」を用いた。しかし,細胞膜は「脂」でできた平面膜なのでとても柔らかく,従来の同型顕微鏡では可視化は不可能だった。
そこで研究グループは,オリンパスと共同で「生きた細胞の細胞膜を可視化するための高速走査型プローブ顕微鏡」の開発に取り組み,細胞に与える力を大幅に弱くすることで,細胞膜の形状を数nmの分解能で可視化する事に成功した。
さらに,高分解能の蛍光顕微鏡と組み合わせることで,タンパク質の局在を同時に可視化する技術を確立し,細胞膜の陥入(エンドサイトーシス)に伴う膜形状変化のメカニズムを分子レベルで解明することに成功した。
エンドサイトーシスは,細胞が外界の物質やシグナル分子を取り込む一般的なしくみとして古くから知られていたが,膜の形態変化を誘導する分子機構に関しては,不明な点が多く残されていた。
研究グループは,今回,エンドサイトーシスに伴う細胞膜の微小構造変化を捉えることに成功した。そして,その詳細な解析により,細胞内部で膜を支えるタンパク質骨格が重要なはたらきをしていることを証明した。この技術は,細胞表層で進行する様々な生命現象,例えばウイルス・細菌感染,神経伝達,がん,免疫反応などの理解・解明に資する大きな技術革新だとしている。