京都大学の研究グループは,将来の光電子デバイス材料として期待される2次元原子層半導体材料の「単層遷移金属ダイカルコゲナイド」において,「バレー」と呼ばれる電子の波の状態の情報が失われるメカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。
この電子のバレーの情報をデジタル情報処理の0と1に対応させて利用する概念をオプトバレートロニクスといい,高速かつ省エネルギーな光電子デバイスを実現できるとして近年世界的に注目されている。
オプトバレートロニクスを実現するには,バレーの情報をできるだけ長時間保持できることが必要だが,実際にはきわめて短時間に情報が失われてしまい,そのメカニズムも不明だった。
研究では,二セレン化タングステンと呼ばれる代表的な遷移金属ダイカルコゲナイドの単層膜をモデルケースとして,実験と理論の両面から,バレーの情報が失われるメカニズムを突き止めた。具体的には,励起子がバレー分極状態を保持できる時間が,200K程度以下の低温条件では,温度の上昇とともに短くなっていくことがわかった。
さらに,こうした性質が,主として,(1)励起子の重心運動量と(2)ドープされた電子の密度に依存して決まるというメカニズムを明らかにした。さらに,このメカニズムに基づいて半導体材料に工夫を施すことで,バレー状態をより長く保つことができることを見出した。
今回の成果は,2次元原子層半導体の光物性の謎が明らかになったという基礎科学的な意義に加えて,オプトバレートロニクスの実現に向けて材料設計に工学的な指針を与えるものであり,将来の高速省エネルギー光情報デバイスの実現にも繋がるとしている。