東京大学の研究グループは,インフルエンザウイルスに感染したマウスの肺を,生体イメージング法を用いて生きたまま観察することに成功した(ニュースリリース)。
インフルエンザは,時として致死性の肺組織障害を引き起こすため,医学・獣医学・公衆衛生上の対策が必須な呼吸器感染症となっている。インフルエンザウイルスに感染した肺では,免疫系の活性化をはじめ様々な宿主応答が誘導されると考えられているが,従来の固定標本などを用いた解析では,細胞の動きや血液の流れなどの時間軸を持った情報を得ることはできなかった。
研究では,2光子励起顕微鏡を用いた生体イメージングシステムを構築することで,インフルエンザウイルスに感染したマウスの肺における免疫細胞の動きや血液の流れをタイムラプス像として撮影することに成功し,血流速度,血管透過性の変化,免疫細胞の移動速度などの観測,および,新たな病態生理学的なパラメーターとしての定量化解析を行なうことができた。
さらに,このイメージングシステムをバイオセーフティーレベル3 (BSL3) の施設に設置することで,季節性ヒトインフルエンザウイルス(H1N1)のみならず高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)に感染した動物の観察が可能となり,病原性の異なるウイルス株を比較解析することができた。
今回,さまざまな画像解析手法に対応できるように,マウス馴化株を基盤にして,Venus(黄)のほか,蛍光波長の異なるeCFP(青緑),eGFP(緑),mCherry(深赤)の遺伝子を挿入したウイルス株を作製した。このように短波長域から長波長域まで蛍光を発することにより可視化することのできるウイルス株「Color-flu(カラフル)」を作製した。
この研究で確立したインフルエンザウイルス感染肺の生体イメージングシステムは,他の肺疾患の解析にも応用が可能であり,様々な呼吸器疾患の病態解明にも役立つことが期待されるとしている。