東北大学は,テルル化亜鉛のテルルの一部をセレンで置き換えた量子ドットにより,単色光に近い緑色を発する蛍光体の開発に成功した(ニュースリリース)。
ディスプレーで広い色域を達成するには,単色性の高い赤,緑,青の三原色を光源に用いる必要があるが,通常のディスプレーに搭載される光源は波長の広がりが存在する。直径が2~6nmの量子ドットからなる蛍光体は,量子サイズ効果を利用して発光する波長を任意に制御できることに加え,波長の広がりが非常に小さく単色性が高い光を放出する。
青色の光源に単色性の高い青色発光ダイオードを用い,セレン化カドミウム(CdSe)量子ドット蛍光体で広い色域を達成する液晶ディスプレーが既に市販されている。しかし,カドミウム(Cd)は毒性が高いことから普及は進んでいない。最近,鉛を含有するペロブスカイト化合物量子ドットが高い単色性を有することが見いだされたが,鉛もまた毒性を有する問題がある。
量子ドット蛍光体の発光は,その大きさによって色を調整できるが,バンドギャップより小さいエネルギーで発光させることはできない。研究グループは,セレン化亜鉛(ZnSe)のバンドギャップはZnTeより大きいが,ZnTe中のTeの一部をSeで置き換えると,そのバンドギャップはZnTeのそれよりも大幅に小さくなることに着目し,Zn(Te,Se)量子ドットは緑色蛍光体として有望であることを提唱していたが,緑色発光を実現するには至っていなかった。
研究では,Zn(Te,Se)量子ドットの表面を硫化亜鉛(ZnS)の薄膜で被覆することで発光を阻害する因子を不活性化し,Zn(Te,Se)量子ドットによる緑色発光を世界に先駆けて実現した。スペクトル半値幅は30nmであり,この値はCdSe量子ドット蛍光体と同等であることから,ディスプレーの広色域化を達成するのに十分な単色性を有しているという。
現状では蛍光発光の明るさが不足しており(蛍光量子効率1%程度),直ちに実用に供せるレベルには達していない。今後,ZnSでの被覆方法と被覆状態を改良することにより明るさを改善し,CdSe量子ドット蛍光体並みの80%以上の蛍光量子効率を達成することで実用化が期待できるという。また,この研究の知見を活かし,緑色だけでなく赤色発光する量子ドット蛍光体の開発も進め,量子ドット蛍光体からカドミウムや鉛を完全に取り除く技術の完成にも期待がかかるとしている。