九州大学,大阪大学,高エネルギー加速器研究機構,J-PARC センター,日本原子力研究開発機構(JAEA)からなる共同研究チームは,J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)内のミュオン実験装置MUSEにて,半導体デバイスに対する正および負ミュオン照射試験を行ない,正ミュオンに比べて負ミュオンの方がメモリ情報のビット反転の発生確率が高くなることを実験的に初めて明らかにした(ニュースリリース)。
スマートフォンやパソコンだけでなく,冷蔵庫などの家電に至るまでコンピューターが搭載されるようになり,電子機器は私達の生活には欠かせないものとなった。しかし,最近では,これら電子機器の誤作動を引き起こす原因の一つとしてソフトエラーと呼ばれる現象が注目されている。
ソフトエラーとは一過性の誤作動や故障のことで,その要因の一つとして宇宙線が電子機器に衝突して生じる半導体デバイスのビット情報反転がある。宇宙線は,目に見えない中性子やミュオンが正体の,地上に降り注ぐ自然の放射線。
半導体デバイスの微細化・低消費電力化が進むにつれ,放射線耐性は低下しており,従来懸念されてきた宇宙線中性子ばかりでなく,宇宙線ミュオンによるソフトエラー発生の可能性も指摘されている。
今回の実験で,ソフトエラー発生には半導体デバイス内に停止する低エネルギーミュオンによる影響が大きいこと,特に負ミュオンの方が正ミュオンより高い発生確率を示すことが明らかになった。これは,負ミュオンの停止した場所での捕獲反応に起因する。
負ミュオンの照射実験結果の報告はこれまでになく,ソフトエラーの正確な評価とそれに対する対策はIoTの進展による超スマート社会の実現に寄与すると考えられるという。今後は,さらに試験データを蓄積し,シミュレーション手法の精度を高めたソフトエラー発生率の評価技術を確立し,その技術を次世代半導体デバイスの設計などに応用することで,自動運転やIoT分野の安心・安全な半導体技術の創出に貢献することが期待されるとしている。