理研,レーザーで超高感度マイクロ流体SERSセンサーを作製

理化学研究所(理研)は,異なるフェムト秒レーザー加工技術を融合することにより,ごく微量の有害物質をリアルタイムで検出できる「3次元マイクロ流体表面増強ラマン散乱(SERS)センサー」を開発した(ニュースリリース)。

表面増強ラマン散乱(SERS)は,ナノサイズの金属構造表面に吸着したごく微量の物質を検出できる。有害物質をリアルタイム検出するために,マイクロ流体チップ内の流路内壁にSERSセンサーを集積し,流路に測定物質を連続的に導入することが試みられているが,マイクロ流体チップの基板として用いられるポリジメチルシロキサン(PDMS)自体がラマン散乱信号を発生して干渉するという問題がある。

そこで研究グループは,PDMSの代わりに,ラマン信号を発生しないガラスをマイクロ流体チップの基板に用いることを提案し,基板中に埋め込まれた3次元構造を作製した。まず感光性ガラスにフェムト秒レーザー直描後,フッ酸エッチングで3次元流体構造を形成した。その後,同じフェムト秒レーザーを用いて,流体構造内部を選択的にアブレーションし,無電解メッキを施すことにより,アブレーション領域のみに選択的に金属薄膜を堆積させた。

その後,直線偏向のフェムト秒レーザー光を,堆積した金属薄膜にアブレーション閾値程度の強度で照射し,周期的ナノリップル構造を形成し,偏向方向を90°回転したフェムト秒レーザー光を再び照射することにより,周期的ナノドット(サイズ約250nm,ギャップ約50nm)構造を形成した。これら一連のプロセスは,1台のフェムト秒レーザーで行なえる。

このマイクロ流体SERSセンサーの性能を評価した結果,ガラス基板上でのラマン散乱と比較して,7.3×108倍の強度の増強を実現した。この増強度は,これまで実験的に得られたラマン散乱増強度の中でも最大の部類。また,検出位置による散乱強度のばらつきは,実用的な応用に十分な8.8%以下だった。

最後に,マイクロ流体SERSセンサーを用いて,カドミウムイオン(Cd2+)の高感度なリアルタイム検出を試みたところ,Cd2+濃度10ppbの検出感度を確認した。溶液の濃度を,時間とともに10ppbから10ppmまで変化させてたところ,濃度に応じたラマン散乱強度の時間変化が確認され,有害物質を超高感度でリアルタイムに検出が可能なことを実証した。

開発した技術は,半導体プロセスと比較して大幅に加工ステップ数を削減した。また,真空や特殊な雰囲気ガスも必要としない。このセンサーを用いれば,大気,土壌,水,食品などに含まれたごく微量の有害物質を,高速・超高感度にリアルタイムで検出するできる。さらに,病気の早期発見・診断等医療用チップとしての利用も考えられ,安全,安心,健康な社会の実現に貢献するとしている。

その他関連ニュース

  • AkiTechLEO,Litilitのフェムト秒レーザー販売再開 2024年12月20日
  • ギガフォトンら,ガラスへの高生産微細穴加工に成功 2024年12月05日
  • Neg,CO₂レーザーでビア加工できるガラス基板開発へ 2024年12月05日
  • 古河電工と日亜化学,レーザー加工ラボを開設 2024年11月27日
  • 中大,光で動くプラスチックの多彩な変形を実現 2024年11月08日
  • フジクラ,5kW超ファイバレーザーの実運用開始 2024年11月07日
  • 産総研ら,半導体のプラズマ加工ダメージを定量評価 2024年08月29日
  • 東工大ら,線幅7.6nmの半導体が可能な共重合体開発 2024年08月27日