東大,右/左巻きナノ構造を光で作り分けに成功

著者: sugi

東京大学は,右巻きと左巻きのナノ構造を,右巻き,左巻きの円偏光で簡単に作り分ける技術を開発した(Nano Lettersオンライン版掲載論文)。

数nm~数百nm程度の金や銀などのナノ粒子は,プラズモン共鳴により,特定の波長の光を捕捉したり,散乱したりする。ナノ粒子がプラズモン共鳴によって光を捕捉する性質は,太陽電池,光触媒,発光素子,表示材料,バイオセンサーなどに利用できる。

これらのナノ粒子に「ねじれた構造」を持たせると,「ねじれた光」,つまり円偏光を捕捉したり,散乱したりできるようになる。しかし,ねじれた構造を作るには,これまで,電子線リソグラフィーや,DNAなどをもとにして作った「ねじれた鋳型」を用いる方法など,コストや手間,時間をかける手段しかなかった。

研究グループは,「光のねじれ」を「物質のねじれ」に転写するために,酸化チタン薄膜に載せた直方体金ナノ粒子を用い,粒子周囲に生じる微細な光の偏りと,偏った光による酸化鉛の析出を利用した。 酸化チタン薄膜(厚さ40nm)に直方体の金ナノ粒子(およそ110×40×40nm)を載せた。これに円偏光を当てると,4つの角のうち,対角線上にある2つの角に光が集まる。光が集まる角は,右と左の円偏光で異なる。

一方,研究グループでは,「プラズモン誘起電荷分離」という現象を見出した。酸化チタン上の金ナノ粒子がプラズモン共鳴を起こすと,プラズモン誘起電荷分離によって金ナノ粒子上で酸化反応,酸化チタン上で還元反応が起こることがわかっている。プラズモン誘起電荷分離による鉛イオン(Pb)から酸化鉛(PbO2)への酸化反応は,粒子上の「光が集まる場所」で起こりやすいことから,この反応を,酸化チタン上の直方体金ナノ粒子に適用すれば,右と左の,いずれの円偏光を当てるかによって,異なる2つの角に酸化鉛を析出させられると考えた。

その結果,多くの粒子で意図した部位に酸化鉛を析出させることができた。酸化鉛は誘電体であり,プラズモン共鳴を助ける効果がある。したがって,金ナノ粒子がねじれているのと同様の効果を持つ。このねじれた構造は,右円偏光と左円偏光に対し,異なる応答を示す。例えば,左円偏光によって酸化鉛を析出させたナノ構造に右円偏光を当てても,光の偏り方は,酸化鉛がない場合とあまり違わない。しかし左円偏光を当てると,酸化鉛の付近に光が強く偏る。

この技術により,右円偏光に応答するナノ構造と,左円偏光に応答するナノ構造を,円偏光によって簡便に作り分けることができるようになった。これらのナノ構造は,3次元ディスプレーに使う円偏光発光や片方の円偏光を通す円偏光フィルター,生体分子のL体とD体を区別するセンサー,L体とD体を選んで作り分ける(選んで分解する)光触媒,光を自在に曲げ,光回路などに応用できるメタマテリアルなどへの応用が期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 名工大,固体と液体の応力を光計測する手法を開発

    名古屋工業大学の研究グループは,高速度偏光カメラで取得した複屈折データを用い,固体と液体の応力相互作用を光で計測する新手法を開発した(ニュースリリース)。 脳血管疾患は日本の死因第4位を占める深刻な病気であり,その発症メ […]

    2025.09.22
  • 東北大ら,コヒーレントX線によりナノ構造を観察

    東北大学,理化学研究所,北陸先端科学技術大学院大学は,軽量・高強度なマグネシウム合金の加熱実験で,析出物の生成から成長までの過程をナノメートルスケールの動画で観察し,個々の析出物の成長速度や方向の定量評価にも初めて成功し […]

    2025.09.18
  • FHIら,散乱型近接場光学顕微鏡で分解能1nmを達成

    独マックス・プランク協会フリッツ・ハーバー研究所(FHI),分子科学研究所/総合研究大学院大学,スペインCIC NanoGUNEは,散乱型近接場光顕微鏡として,世界最良となる1nmの細かさで物質表面の局所的な光学応答を観 […]

    2025.07.18
  • 東北大ら,有機結晶の磁気的性質と起源を光で解明

    東北大学,高輝度光科学研究センター,関西学院大学,東北大学は,新種の磁石の候補とされる有機結晶に,新たに求めた光に関する一般公式を適用し,その磁気的性質と起源を解明した(ニュースリリース)。 磁石に光を当てると,どんな磁 […]

    2025.07.16
  • 東大ら,テラヘルツ~深紫外で98%超の吸収構造実現

    東大ら,テラヘルツ~深紫外で98%超の吸収構造実現

    東京大学,フィンランドUniversity of Eastern Finland,リトアニアState Research Institute Center for Physical Sciences and Techno […]

    2025.06.16
  • 東大,光の偏光面が回転する電場誘起旋光性を巨大化

    東京大学の研究グループは,電場印加に比例して光の旋光性が誘起,制御される現象「電場誘起旋光性(linear electrogyration)」を巨大化することに成功した(ニュースリリース)。 電場の印加によって試料を透過 […]

    2025.05.16
  • 高知工科大,デンケン未来光技術研究センター開設

    高知工科大,デンケン未来光技術研究センター開設

    高知工科大学は,総合研究所にデンケン未来光技術研究センターを開設し,この1 月15 日に開所式を行なった(ニュースリリース)。 このセンターはデンケンが100%出資しているもので,同社は高知工科大学が保有する光センシング […]

    2025.03.10
  • 農工大,レーザーで均一なナノ周期構造を形成

    東京農工大学の研究グループは,チタン表面に高強度のフェムト秒レーザーパルスを照射するだけで,周期が490nmで一定で直線性の良いナノ構造体を,固体表面から直接削り出だせる技術を開発した(ニュースリリース)。 サブミクロン […]

    2025.02.26
  • オプトキャリア