産業技術総合研究所(産総研)は,スーパーグロース法で作製した単層カーボンナノチューブ(SGCNT)をフィラー(添加材)として,常温大気硬化型液状ゴム中に分散させた電磁波遮蔽コーキング材を開発した(ニュースリリース)。
無線通信の発達に伴い,電磁波を通信に利用する電子機器が周囲からの電磁波に干渉を受けて誤動作をする危険性や,自ら発する電磁波により情報漏えいしてしまう危険性が生じている。これらの危険性を低減させるためには,電子機器自体から発せられる不要な電磁波を遮蔽することはもちろん,電子機器を設置する空間における電磁波隔離・遮蔽技術も求められている。
例えば部屋の電磁波を隔離・遮蔽するために,部屋の床,壁,天井,窓,扉などに電磁波遮蔽材が用いられている。しかし,それらのつなぎ目に隙間ができると,そこから電磁波が漏れて遮蔽が不十分になる。そのため,隙間充填性や金属接着性に優れ,割れにくい電磁波遮蔽コーキング材の開発が求められていた。
産総研は,これまでに開発したSGCNTの分散技術や複合材料作製技術を活用して,常温大気硬化型液状ゴムにSGCNTをフィラーとして分散,複合化させた電磁波遮蔽コーキング材の開発に取り組んだ。
このコーキング材は,常温大気下で硬化する液状ゴムを母材としているため,ヘラや,シリンジ,コーキングガンを用いて,隙間や溝に密着性良く塗布・充填できる。塗布・充填後は常温大気下で硬化するため,それらの隙間や溝をゴムとして埋めることができる。さらに,硬化後のコーキング材は,金属などの電磁波遮蔽材との接着性にも優れる。
また,電磁波を遮蔽できるSGCNTを分散しているので,ゴムの硬化後5mm程度の厚みで金属並みの60dBという電磁波遮蔽能を示す。パテと異なり,ゴムの性質によって遮蔽材の振動や微小変形時にも割れることが無く,振動や微小変形から生じる遮蔽材間の隙間や溝のひずみ,振動を吸収する。スチールウールとも異なり,シーリング性にも優れる。
このように,今回開発の電磁波遮蔽コーキング材は,さまざまな既存品に比べて,操作性においても物性においてもバランス良く良好な性質を示すという特長を持つ。今後展示会などを通じ,企業からの相談に応じて評価用のサンプルを提供する予定。