名古屋大学,科学技術振興機構(JST)らの研究グループは,グラフェンのような平面状の物質(2次元物質)の表面に,棒状の細長い分子を1方向に揃えて並べる新しい手法を見出した(ニュースリリース)。
近年,グラフェンの電流を流す性質の制御や,グラフェンで作った電子デバイスの性能を向上させる手段として,表面上に規則正しく並んだ分子の集合体を形成することに注目が集まっており,その手法が盛んに研究されている。
今回,研究グループは,細長い分子がグラフェン上に並ぶ性質を、原子間力顕微鏡(AtomicForceMicroscope,AFM)を使って制御できることを見出した。AFMは,観察する試料の表面に細く尖らせた針(探針)を押し付けながら一列ずつ走査(スキャン)し,試料の表面と探針の間に働く力を検出することで,ナノスケールの凹凸を画像化することができる。
研究グループは,グラフェンの上によく吸着することが知られているSDSと呼ばれる細長い分子をモデルケースとして,AFMスキャンが表面吸着に与える影響を調べた。まず,AFMの探針を試料に押し付ける力があまり強くならないように調節して,観察を行なったところ,分子が,様々な方向にランダムに向いた状態でグラフェン表面に吸着している様子が確認された。次に,AFMの探針を試料に押し付ける力を強くして観察をしたところ,吸着した分子の細長い集合体が,向きを揃えて徐々に並んでいく様子が確認できた。
そこで,研究グループは,理論計算を用いて,どうしてこのような現象が起こるのかを検討し,最終的に,AFMの探針を押し付ける力とスキャン方向を精密に調整することで,分子集合体が成長する方向を完全に制御できることを突き止めた。
さらに詳しい研究によって,この現象は,AFMの探針を一定の方向にスキャンすることで,グラフェン上での細長い吸着分子の向きに応じた居心地の良さ(安定性)が,方向に応じて異なる状態が生じること(実効的な表面対称性の低下)により実現していることも判明した。
今回の研究では,グラフェンの上にモデル分子を並べたが,そのメカニズムは,AFM探針のスキャンによって生じる動力学的な対称性の低下という普遍的な物理現象に基づくことから,今後,2次元物質の電子特性制御や分子エレクトロニクスなどに役立つ技術の実現につながることが期待されるという。