東京大学の研究グループは,地球上においてそれぞれ液体・固体として最も豊富に存在する水とシリカの類似性と相違について研究を行ない,その物理的な起源を解明することに成功した(ニュースリリース)。
水とシリカは,それぞれ水素結合,イオン性・共有結合によって局所的にテトラヒドラル構造を形成し,同じ対称性を持った結晶構造を持つ,温度冷却時に液体の密度が最大になる温度の存在,圧力上昇時に液体の粘性が最小になる圧力の存在など,似た熱物性・動的特性を持つことが古くから知られていた。
一方,水とシリカは,そのガラス形成能という面では,全く異なった性質を示す。水は,極めてガラス状態になりにくく,通常の冷却方法では,-50度に到達する前に必ず氷になってしまい,ガラス状態を形成することは難しい。
一方,シリカは,ゆっくり冷却しても容易にガラス状態になり,人類はこの性質を古くから使ってきた。しかしこれらの類似性・相違点がどのような物理的起源に起因するのかは,長年の研究にもかかわらず未解明であった。
研究グループは,液体における構造化を,中心粒子から見たときの周りの粒子の並び方として捉え,特に中心からの距離の秩序と方位の秩序に着目し,これらの秩序に関し二つの原子種両方について研究することで,液体の中に形成される局所的な構造秩序をあぶりだすことに成功した。
水分子の場合,分子内が共有結合,分子間が水素結合とエネルギースケールの異なる結合で安定化されており,水分子自身のもつ構造の自由度が小さいため,酸素のみならず水素にも方向秩序が存在する。一方,シリカの場合には,すべての結合が共有・イオン結合により安定化されているため酸素のとり得る配置の自由度が大きく,その方位秩序が低い。
その結果,水とシリカの間には,距離の秩序に関して類似性があるものの,方位の秩序に関しては大きな違いがあり,それらがそれぞれ,上述の水とシリカの結晶構造,密度異常,粘性異常などの類似性とガラス形成能の大きな相違の物理的起源であることが明らかになった。
この成果は,水とシリカという最も身近な液体の基本的性質を明らかにしたのみならず,テトラヒドラル液体の理解や,ガラス形成能の意図的な制御にも新しい道を拓いたという意味で,応用上のインパクトも大きいとしている。