東京大学と理化学研究所の研究グループは共同で,近年発見されたトポロジカル半金属Cd3As2について,バルク単結晶を凌駕する高品質薄膜を作製し,トポロジカル半金属の電子構造に由来した非散逸な量子伝導を観測した(ニュースリリース)。
電子状態の非自明なよじれをもつ物質はトポロジカル物質と呼ばれ,物質のトポロジカルな性質とその状態の変化を表すトポロジカル相転移は,2016年のノーベル物理学賞の対象にもなった。
トポロジカル物質の代表例であるトポロジカル絶縁体は,トポロジカル物質の研究を加速し,非散逸な量子伝導を利用した低消費電力エレクトロニクスの開発が期待されている。
一方,より高い対称性をもつ物質として,トポロジカル半金属と呼ばれる新たなトポロジカル物質が発見され,注目を集めている。
トポロジカル半金属は,トポロジカル絶縁体を含むトポロジカル物質の母物質に相当しており,対称性や次元性を変化させる外部刺激によってトポロジカル相転移を引き起こし,さまざまなトポロジカル状態と量子伝導を制御できると期待されている。しかしながら,トポロジカル半金属は薄膜化が難しく,高品質薄膜を用いた研究が望まれてきた。
研究グループは,典型的なトポロジカル半金属であるCd3As2について,パルスレーザー堆積法により組成を保ったまま蒸着可能であることに着目し,高温での結晶化を可能にする独自のアニール手法を組み合わせることで,これまでに報告されてきたバルク単結晶をはるかに凌駕する高い結晶性・純度をもつ薄膜の作製に成功した。
作製した薄膜の電気抵抗の測定を行なったところ,強い磁場中におけるCd3As2薄膜の抵抗測定から,トポロジカル半金属の閉じ込め構造における非散逸な量子ホール状態を観測し,トポロジカルな性質が薄膜の厚みに依存して変化するトポロジカル相転移現象を実証した。
今回の発見は,高品質なトポロジカル半金属薄膜を基盤として,トポロジカル相転移現象の解明とそれを利用した非散逸伝導機能の制御を大きく前進させると期待できるという。