理化学研究所(理研)と東北大学は,「磁性トポロジカル絶縁体」の磁壁におけるトポロジカル電流の観測とスピントロニクスデバイスの基礎原理の実証に成功した(ニュースリリース)。
近年,磁性トポロジカル絶縁体で「量子異常ホール効果」が観測された。これは,磁石中に磁化があることで生じる外部磁場が不要な量子ホール効果であり,試料端において,エネルギー散逸の少ないトポロジカル電流が一方向に流れる。このとき,磁区の境界である磁壁においてもトポロジカル電流が生じることが理論的に提唱されていた。
磁壁でのトポロジカル電流は,その向きおよび位置を制御することができるため,これを用いた再構成可能な回路の設計が可能であり,低消費電力素子への展開を飛躍的に進めると期待される。しかし,磁区を任意に作ることが困難であり,磁壁でのトポロジカル電流はこれまで観測されていなかった。
今回,共同研究グループは磁気力顕微鏡を用いることで,磁性トポロジカル絶縁体上に任意の磁区を書き込む手法を新たに確立した。
磁区形成後の素子に対して,0.5K(-272.65℃)の極低温で電気伝導測定を行なったところ,磁区構造に応じた量子化抵抗が観測され,磁壁におけるトポロジカル電流の存在が確認された。さらに,単一素子内でのさまざまな磁区構造の形成により,トポロジカル電流の流れおよび量子化抵抗を自在に制御できることを明らかにした。
この研究により,トポロジカル電流を用いた新しいスピントロニクスデバイスの基礎原理が実証された。今後,電流での磁壁駆動による次世代磁気メモリの構築や動作温度の高温化によるデバイスのさらなる発展が期待できるとしている。