産業技術総合研究所(産総研)は,常温・大気中で簡便に作製できるガスクロミック方式の酸化タングステン系調光膜を開発した(ニュースリリース)。
調光ガラスの調光膜には酸化タングステンが代表的に使われている。しかし,このエレクトロクロミック方式の調光ガラスは構造が複雑で製造コストが高く,近赤外線を反射する透明導電膜が電極として必要なため,透明時の近赤外領域での透過率が低いといった問題があった。
今回,ガスクロミック方式の酸化タングステン系調光膜を,真空蒸着法ではなく,より低コストの化学溶液法で作製するためのコーティング液を開発した。化学溶液法は高価な真空装置は不要だが,通常,数百℃以上での高温焼成工程が必要であった。しかし,今回開発したコーティング液を使うと,基板に塗布した後,常温・大気中で乾燥させるだけで,水素ガス応答性の良い酸化タングステン系調光膜を作製できる。
高温焼成工程が不要で,常温・大気中で作製できるため,ガラス基板だけでなく,耐熱性の低いプラスチック系シート上への成膜も可能となった。また,通常,ガスクロミック方式の調光ガラスは,ガラス基板上に調光膜と触媒膜の二種類の膜を別々に積層して作製されるが,このコーティング液を使えば,一種類の膜のみでガスクロミック膜としてデバイス化できるため,時間当たりの作製量を増やすことが容易となり,大幅なコスト削減や大量生産が可能となる。
また,透明時の透明度が高いことから,スマートウインドーなどの用途に適しているという。水素ガスに触れると色が変わるガスクロミック方式の調光シートは,水素ガスの検知シートとしても用いることができるが,今回の技術を用いることで,低コストの検知シートを実現できるとしている。
今後は,このコーティング液の安定性や,作製した調光膜の耐久性の評価を行なうという。また,このコーティング液を使うことにより,より安価・簡便に酸化タングステン系ガスクロミック調光膜を作製することができるようになるため,大型ガラスやプラスチック系シートへの適用を検討し,住建築物,自動車などの窓ガラスとしての応用を目指す。
さらに,透過率変化から水素濃度を測定する水素センサーや,直接水素の拡散を観察できる水素可視化シートへの応用も図る予定だとしている。