奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の研究グループは,理化学研究所との共同研究により,植物が光環境に応答し,水を運ぶために使う細胞として道管細胞を作る仕組みの一端を解明した(ニュースリリース)。
維管束植物は,水を運ぶことに特化した道管細胞によって,土中から吸い上げた水を全身へと送り届ける。これまで,この道管細胞は,VNDファミリーと呼ばれる転写因子群に含まれる複遺伝子の働きによって作り出されることが分かっていた。
しかしながら,VNDファミリー群はモデル植物シロイヌナズナでは7遺伝子,イネでは8遺伝子,トウモロコシでは6遺伝子,と複数個の遺伝子を含んでおり,それぞれ遺伝子間で役割分担があることが予想されていたが,その実態については未解明のままだった。
研究では,新たに,植物ホルモン添加によって葉の細胞を道管細胞へと転換させるシステム「KDBシステム」の確立に成功した。そしてこのシステム内での遺伝子の働きを調べることによって,これまで役割が分かっていなかったVND1〜VND3の3遺伝子が,子葉の道管細胞をつくる主要な遺伝子であることを明らかにした。
さらにこれら3つの遺伝子は,暗所で育てたときの子葉の道管形成に必須であることが分かる一方で,光条件に応答した芽生えの成長の制御を行なっていることも示された。このようにVNDファミリー内の遺伝子間の役割分担を初めて明らかにするとともに,植物は特定のVND遺伝子のはたらきを通して,光環境に応答した道管づくりを行なっているという,新たなしくみを解明した。