理研ら,反陽子の磁気モーメントを超高精度測定

理化学研究所(理研),東京大学,ドイツ研究者らの国際共同研究グループは,68%の信頼水準で相対的な不確かさ(測定値に対する不確かさの割合,相対精度)が10億分の1.5(1.5ppb)という超高精度で,反陽子の磁気モーメントを直接測定することに成功した(ニュースリリース)。

素粒子物理の標準理論の基本的な対称性である「CPT対称性」は,粒子とその反粒子は物理学的な性質が等価であることを予言している。

一方で,この宇宙が約138億年前にビッグバンによって生まれた際,同量の粒子と反粒子が作られたと考えられているが,現在の宇宙には反粒子からなる反物質はほとんど見当たらない。これは,現代物理学が抱える大きな謎の一つであり,「物質-反物質非対称性」と呼ばれている。

今回,国際共同研究グループはCPT対称性を厳密に検証するために,反陽子の磁気モーメントを超高精度で決定し,既に150倍以上の精度で知られている陽子の磁気モーメントと比較した。

実験では,荷電粒子の基礎物理量を高精度で測定できるぺニングトラップを用いた。別々に閉じ込められた2個の反陽子を独立に分光するという新たに開発した実験手法を用いて磁気モーメントを測定した結果,相対精度が68%の信頼水準で1.5ppbを得た。

これは,国際共同研究グループが2017年1月に達成した当時の最高精度(1,000万分の8,0.8ppm,95%の信頼水準)をさらに350倍上回り,現時点での世界最高記録となる。

また,国際共同研究グループが2014年に発表した陽子の磁気モーメントの値と不確かさの範囲内で一致し,今回到達した精度では物質-反物質の対称性が保たれていることを明らかにした。

今後は,反陽子の磁気モーメントを将来的にさらに高い精度で測定することを計画している。陽子と反陽子を用いてCPT対称性の検証をさらに深めることで,現在の宇宙における物質―反物質非対称性の謎により一層近づくことができると期待できる。

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