東北大ら,ダークマター実験のシグナルに仮説

著者: sugi

東北大学と東京大学は,ダークマター探索実験XENON1Tによって得られたシグナルは,アクシオンと呼ばれるダークマター候補の一つが電子に吸収されることによって生じた可能性を指摘した(ニュースリリース)。

今年の6月,液体キセノンを用いてダークマター探索を行なっていたXENON1T実験によって,素粒子の標準的な理論では説明のつかないシグナルの兆候が得られたことが発表された。これはまだダークマターの確定的なシグナルではないが,実験の今後のアップデートによってより確かな情報が得られることが期待されている。

ダークマターの候補である新粒子としてさまざまなものが提案されているが,その一つにアクシオン的粒子(以下アクシオン) と呼ばれる非常に軽い粒子がある。アクシオンは様々な物質と弱く相互作用をする。そのなかでも,量子アノマリーと呼ばれる特殊な過程を通じて一般に光子と相互作用することが知られている。研究グループは,XENON1Tによって得られた過剰な電子反跳事象が量子アノマリーを持たないアクシオンによるものである可能性を指摘した。

アクシオンが電子との相互作用を持っていると,ダークマターとして宇宙空間を漂っているアクシオンがXENON1T実験においてモニターされている液体キセノン中の電子に吸収され,アクシオンの質量のエネルギーに対応するシグナルを与える。アクシオンの質量が電子の質量の約1/200であれば,これによってXENON1T実験で得られたシグナルを説明することができる。

アクシオンは一般に量子アノマリーを通じて光子との相互作用も持つが,その場合にはダークマターとして存在するアクシオンが崩壊してX線のエネルギーを持つ二つの光子を放出し,様々な天体からのX線観測結果と矛盾してしまう。研究では量子アノマリーを持たない特別なアクシオンを考えることで,X線の観測結果と矛盾せずにXENON1T実験の結果を説明することができることを示した。

さらに,アクシオン存在量が観測されたダークマターの存在量を自然に説明し,特にダークマターの10%程度を占めている場合には,XENON1T実験の結果を説明すると同時に,天文観測によって観測されていた冷却異常をより良く説明することができることも示した。

研究グループは,量子アノマリーを持たないアクシオンがダークマターであることが今後の実験で確定的なものとなれば,宇宙論と天文学のみならず,物理学の基礎理論を探求する素粒子理論にとっても重要な成果となるとしている。

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