東大ら,励起子で光の情報を制御する現象を発見

東京大学の研究グループは,大阪大学と共同で,新たな二次元物質として注目される二硫化モリブデン(MoS2)の単層を用いて,入射光の偏光情報を保った励起子を伝達し,選択的に空間分離することが可能な新現象(励起子ホール効果)を発見した(ニュースリリース)。

フォトダイオードやLEDを構成する半導体の受光・発光において,励起子といわれる複合粒子が主要な役割を果たす。励起子は素子の電気特性と光を結びつける概念として20世紀半ばから研究が続いてきたが、その光のエネルギー・情報を受け取った励起子そのものを伝達・制御し、光エレクトロニクスにつなげようとする研究は極めて少なかった。

一方で,固体中の様々な粒子の軌道を曲げて制御するホール効果と呼ばれる現象は広く研究されてきたが,励起子については全く報告がなかった。

研究の対象とした物質はグラフェンや二硫化モリブデン(MoS2)に代表される層状構造を持つ二次元物質。特にその MoS2の単層は半導体材料として近年注目を集めており,0.6㎚の薄さながら良好なトランジスタ特性や光特性を有することが知られている。

MoS2の測定は光を照射したときの試料からの発光(フォトルミネッセンス)の空間分布を測定する手法を用いた。照射点からサンプルに沿って励起子が拡散していく様子が観測された。更に2種類のバレー励起子が光の偏光情報と一対一に対応することから,その偏光を分離して測定できる測定系を構築して,2種類のバレー励起子の動きをそれぞれ追跡した。

この2種類のバレー励起子はそれぞれが逆符号の内部磁場を有していると考えられており,それぞれ逆向きのホール効果を示すことが期待される。

バレー励起子の軌跡を測定したところ,駆動力と直交する方向にそれぞれ逆向きの運動をしていることが観測された。この信号がゼロ磁場下で観測され,かつ励起光の偏光と対応したシグナルであったことから,バレー励起子の自発的ホール効果であることが分かった。

観測された現象は「励起子ホール効果」と呼ばれるべき新現象であり,初めて実験的にその存在が示された。またこのとき光によって書き込まれた情報はバレー励起子として空間輸送されており,その情報の到達距離(バレー拡散長)は2㎛を超えていることが分かった。

これは,励起子ホール効果と組み合わせることで,物質中で光の情報を選択的に長距離輸送できることを示しており,2次元物質の応用可能性をさらに広げる結果だという。研究グループは,今回の発見を契機として,偏光により入出力を行なうバレーメモリーや偏光を用いた次世代光通信デバイスの実現に向けた研究が期待されるとしている。

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