北海道大学,イムラ・ジャパン,東京大学は共同で,酸化チタンの薄膜と金ナノ微粒子,金薄膜を組み合わせた光センサーを開発し,照射する可視光の波長によって,流れる光電流の向きを反転させることに成功した(ニュースリリース)。
サイズが数~数10nmの金属ナノ微粒子(金,銀,アルミニウムなど)に光を照射すると,局在表面プラズモン共鳴が起きる。この光の増強効果は,金属ナノ微粒子のごく近くに存在する少数分子の光検出を可能とし,高感度バイオセンサーをはじめとして,太陽電池や人工光合成などの光エネルギー変換装置における光アンテナとしても注目を集めている。
金ナノ微粒子を酸化チタンなどの酸化物半導体基板上に配置し,可視光(波長400~800nm)を照射すると,酸化チタンは可視光を吸収することができないが,金ナノ微粒子の局在表面プラズモン共鳴により,金から酸化チタン伝導体へ電子が移動する。今回,酸化チタンの薄膜層の上側に金ナノ微粒子を,下側に金薄膜を配置し,照射する波長によって光電流や光起電力の方向を反転させられることを実証した。
金ナノ微粒子/酸化チタン/金薄膜電極を作用極,白金を対極(参照電極として白金をそのまま,またはAg/AgCl電極を使用)として電解質水溶液に接触させた。次に,可視光領域の様々な波長の光を作用極に照射して水の酸化還元反応に基づく光電流や光起電力を観測し,それらが照射波長により反転することを検証した。
金ナノ微粒子を酸化チタン薄膜上方の内側に配置すると,金ナノ微粒子のプラズモン共鳴波長は650nmに出現する。それより長い波長の赤い光を照射すると,金ナノ微粒子のプラズモンが励起され,金ナノ微粒子から放出された熱電子が酸化チタン薄膜を通り金薄膜へ流れ込む。
一方,650nmよりも短い波長の緑色の光を照射すると,金薄膜自身の光吸収と金ナノ微粒子の強い光散乱によって金薄膜上に伝搬型表面プラズモンが誘起され,金薄膜から酸化チタン側に電子が流れ込む。流れ込んだ電子は金ナノ微粒子を通り越して電解水溶液に到達し,赤い光を照射したときとは逆向きに電流が流れる。
これらの電流の流れを目で確認できるように電子回路を作り,照射する光の波長によって光電流の向きが変わることを検証した。
研究では,金ナノ微粒子/酸化チタン薄膜/金薄膜の構造を持つ電極を用いることで金薄膜上に伝播型表面プラズモン共鳴励起が生じ,金薄膜から酸化チタンへ電子が流れることを初めて明らかにした。また,金ナノ微粒子のサイズや電極間に加える電圧によって,光電流の向きが反転する波長(上の例では650nm)を制御できることも解明した。
研究で解明された新原理を用いれば,非常に小さなプラズモン共鳴波長の変化でも光電流や光起電力の反転という信号の変化として検出することが可能となる。従来より高感度で高速な医療検査キットや,化学センサー,光センサーなどへの技術展開が期待されるとしている。