重要度を増す光技術 ─自動車産業分野を巡る注目の製品

自動車産業を巡っては,大きな潮流が訪れている。光産業技術分野にとっても自動車産業は重視すべきものとなっており,自動車の進化を支える重要な役割を担いつつある。

現在,自動車開発は安全・安心をキーワードに,運転支援などの観点から高度な技術開発が進んでおり,さらに将来の完全自動運転の実用化に向けてアクセルが踏まれている状況にある。

こうした中,この5月25日~27日の3日間,パシフィコ横浜において『人とくるまのテクノロジー展 2016』が開催されたが,自動車産業分野に光技術がどこまでアプローチされているのかについて,同展において注目した製品を挙げてレポートする。

■安価な固体素子LiDARを開発するValeo
Valeoが開発中の個体素子LiDAR
Valeoが開発中の個体素子LiDAR

フランスの大手自動車部品メーカーValeoは,固体素子(Solid-state)によるLiDAR(Light Detection and Ranging)をカナダの検知・測距機器のメーカーLeddarTechと共同開発し,試作品を発表した。

LiDARは,自動車周囲の障害物や歩行者などを検出する「眼」となるデバイスとして,自動運転やADAS(Advanced Driving Assistant System:先進運転支援システム)での採用が期待されている。具体的には車の周囲にレーザーを照射し,その反射光を検出することで,障害物の位置や距離などを特定する。

同社は既に,ドイツのIbeo Automotive SystemsからOEM供給を受けたLiDAR「Scala」をAudiに供給しており,搭載モデルが近いうちに発売されるとしている(「Scala」の詳細は2016年1月号P57参照)。

今回発表したLiDARは,1つのLDを光源として,光学系によって分けた16本のビームを水平方向に60°(1本あたり広がり角3.7°)の範囲に照射する。縦方向のレイヤーは1層のみ(広がり角3.5°)となっている。反射光は独立した16個のASICレシーバーにより高い感度で検知する。

従来製品の「Scala」が機械式でレーザーを走査するメカニカルスキャン方式なのに対し,この製品は動作部が無いため,安価で信頼性も高い。センサー面のサイズは約5×4 cm。形状が異なるので単純な比較は難しいとしながらも,体積もレーダーと同程度にまとまっているようだ。

使用するレーザーは900 nm周辺の近赤外線。出力はアイセーフとだけしか公表していないが,トラックなど大型車両ならば80 mの距離でも検出できるとしている。ただし「Scala」と比べると解像度は低いため,障害物の種類を見分けることまではできず,従来のレーダーのようにその有無が分かる程度の見え方になるという。

一方で,レーダーと比べて乱反射が少ないことや,障害物までの正確な距離が測れること,そして価格が「Scala」やレーダーよりも安くなる(1万円以下)ことを長所として挙げており,「シンプルで使いやすいセンサー」として,自動車メーカーに営業をかける。

現在のところ,具体的な採用は決まっていないというが,同社では2018年には量産の体制を整えたいとしている。

■市光工業のインテリジェント・ランプ
ソケット型LED光源ユニット
ソケット型LED光源ユニット

市光工業は,今後搭載車数が増加すると見込まれている自動制御ライティングシステム(ADB:Adaptive Driving Beam)を発表。ルームミラーに設置したカメラを活用し,車両の位置と距離を計算して,自動的にハイビームの照射角を制御するものだが,今後普及を加速させる計画だ。

また,「MonoLED」と呼ぶソケット型LED光源ユニットの販売にも注力している。このユニットはLED光源と駆動回路,放熱部品,光源ソケットを一体化したもので,熱伝導率を高めるため,特殊な樹脂を採用している。これにより,一体化において放熱効果の課題をクリアした。このユニットはアルファード(トヨタ自動車)のヘッドランプ内ポジションランプに採用されたが,今後はテール&ストップランプ用やリアフォグランプ用,ターン用などに展開させる予定としている。

ヘッドランプでは,レーザーの採用も見込まれているが,同社はフランスの大手自動車部品メーカーValeoとの相互連携を図り,レーザーヘッドランプの開発も進めているという。今後の開発動向が注目されている。