北大ら,赤外線観測で金星にジェット気流を発見

北海道大学とJAXAを中心とする研究グループは,金星大気の分厚い雲を透かして観測できる金星探査機「あかつき」の観測データを使って風速を求めたところ,中・下層雲領域(高度 45-60km)の風の流れが赤道付近に軸をもつジェット状になっていたことがわかり,これを赤道ジェットと命名した(ニュースリリース)。

金星の大気はほぼ全体が自転よりもはるかに速く回転しており,高度約70kmの雲頂付近ではその60倍ほどの速さで大気が一周する。これは自転を「超える」流れという意味で「スーパー」ローテーションと呼ばれるが,スーパーローテーションがいかにして生ずるかは未解明であり,金星探査機「あかつき」によってこの謎に迫る情報がもたらされることが期待されている。

金星の雲の下は限られた種類の赤外線は雲を透過できる。「あかつき」の赤外線カメラIR2は,下層大気の熱放射による赤外線が雲を透過する際にできる「影絵」を観測することで,特に分厚い中・下層雲(高度約 45-60km)を可視化する。同様な観測は,欧州の探査機などでも行なわれたが,衛星軌道や視野の制約などから低緯度の観測は限られていた。当時の観測ではこの高度帯の風速は水平一様性が高く,時間変化も少ないと考えられてきた。

今回の研究では,研究グループが最近開発した高性能で信頼性の高い雲追跡手法を用いて,雲の動きから大気の流れの水平分布を導き,詳しく調べた。

IR2による撮像データから風速を求めたところ,2016年7月の観測から赤道ジェットが見つかった。赤道ジェットはその後少なくとも2ヶ月は継続した。2016年3月の低緯度の風速はやや遅く,ジェット状ではなかった。低緯度で突出して速くなるという,今回見つかった風速の水平構造は,観測が限られていた中・下層雲域だけでなく,より多くの先行研究がある雲頂付近を含む他の高度帯でも観測例がない。

赤道ジェットが生じる原因は今のところ不明だが,この現象を説明しうるメカニズムは絞られる。これらのメカニズムがスーパーローテーションについての諸理論とかかわりがあることから,今後研究を進めることで,局所的なジェットのみならずスーパーローテーションの理論についても有用な知見が得られると期待されるという。

これまで「あかつき」の中間赤外カメラLIRによる雲頂の観測からは,誰も予想しなかったと考えられる巨大な「弓状構造」が発見されており,この弓状構造の特性から,観測が難しい地表面近くの大気の状態に関する情報が得られることがわかっている。

今後も「あかつき」データの解析を進め,さらに数値シミュレーションによる研究と組み合わせていくことで,地球の双子星ともいわれる金星大気の実体解明が大きく進むことが望まれる。近年,太陽系外の惑星が続々と見つかっており,この知見は将来的には,地球を含む幅広い惑星の大気についての理解にもつながるものだとしている。

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