自動車のヘッドランプはLEDの性能向上とともに,進化を遂げてきた。既に多くの車種でLEDヘッドランプの採用が進み,一つの大きなトレンドとなっている。
一方で,ヘッドランプメーカはさらに“次”のヘッドランプの開発にも着手している。レーザーヘッドランプである。
東京モーターショー2015(10月29日~11月8日,東京ビッグサイト)において,小糸製作所とスタンレー電気はレーザーヘッドランプを出展した。2年前の開催ではコンセプトモデルとしてモックアップの出展にとどまっていたが,今回は実用化を想定した試作品の披露となった。
両社に共通するのはハイビーム用に3個,ロービーム用に3個の合計6個の白色レーザーの搭載と樹脂に光ファイバーを埋め込みRGBレーザーによってカラー配光するランプデザインになっていることだ。まだ開発品ということで,両社ともに現状の輝度や光束の数値は明らかにしていない。
レーザーヘッドランプの採用は2020年頃から始まると見られている。現在,Audi R8やBMW i8がOsramと開発したレーザーを採用したヘッドランプを搭載しているが,高速走行でのみ動作するハイビームの補助光として用いられている。
これらの車は共に約2,000万円と高価格で,生産数も少ないスポーツカーであることから,あくまでも実用化に先駆けたお披露目としての意味合いも強い。
しかしBMWは最上級セダンである7シリーズの最新型にもレーザーヘッドランプを搭載すると発表,今後その採用を広げていくことを示唆している。
■何故レーザーヘッドランプなのか
レーザーヘッドランプのアドバンテージはLEDに比べ,より遠方の照射を可能にする点だ。
日本の道交法ではハイビームの照射距離は100 mと定められているが,BMWはLEDハイビームで300 m,レーザーヘッドランプで600 m先まで照らすことができると発表している。
さらに,レーザーを用いることで,きめ細かい配光制御の実現も期待されている。
現在,ヘッドランプの制御技術としてADB(Adaptive Driving Beam)が注目されており,搭載車両も増えている。ADBはカメラで先行車や対向車などを検出し,配光を制御することでハイビームの眩しさを抑える技術。遮光版を機械駆動で動作するタイプと,いくつかのセグメントに分割したLEDを状況に応じてON/OFFするタイプとがあり,現在は後者が主流となっている。
後者の場合,セグメント数の多いほど細かい配光制御が可能になる。既にAudiの最上級セダンであるA8ではハイビームに25個のLEDを搭載しており,メルセデスベンツの次期型Eクラスには84個のLEDを搭載することが発表されている。ちなみにスタンレー電気は今回のモーターショーで,300セグメントのLEDヘッドランプの試作品を展示した。
さらに光源がレーザーになれば,DMDやMEMSを用いた配光が可能となり,ADBは従来のヘッドライトの枠を超えた制御を手に入れることができる。
例えば道路上に車の進行方向を示すサインを投映し,他の車や歩行者とコミュニケーションをとることで,事故を未然に防ぐ機能が実現する。
つまりレーザーによりヘッドランプはこれまでの概念を超え,いわば「ディスプレイを兼ねた照明装置」へと進化する可能性を秘めている。
もちろん,究極の点光源であるレーザーを採用することでデザインの自由度は大幅に向上する。さらに,自動車の省エネ化や軽量化にも貢献するなど,様々なアドバンテージがあると考えられる。